コスト効率と長期供給を両立するAMD FPGAファミリ
高性能かつ柔軟性に優れたFPGA(Field-Programmable Gate Array)を採用する際、コスト効率の最適化と長期供給の実現は、産業用途や組み込みシステムにおいて極めて重要な要素であり、製品開発の成否を決定づける鍵となります。
本ブログでは、AMD社が提供する幅広いFPGAソリューションについて紹介します。
AMD社は、Spartan™ UltraScale+™やArtix™ UltraScale+™といったコスト効率の高いFPGAファミリから、Zynq™ UltraScale+™ MPSoCやKria™ SOMのような統合ソリューション、さらにはソフトプロセッサIPまで、多岐にわたる製品群を取り揃えています。
それでは、AMD社のFPGAソリューションが産業用途や組み込みシステムの開発者のプロジェクトにどのような価値をもたらすのか、詳しく説明していきます。
*掲載情報は、2024年10月時点の情報です。
目次
コスト最適化FPGAのラインナップ
図1はAMD社のFPGAプロダクトラインナップを示しています。
AMD社は、1984年に世界初のFPGAを開発し、その後、Arm® CPUを内蔵したSoCタイプの製品を「Zynq™」シリーズとしてリリースしています(図1の青枠部分)。
そして、図1の赤枠部分が最新の「Versal™」シリーズです。
図1における赤枠の部分のVersal適応型SoCは、Arm CPU、FPGAに加え、Intelligentエンジンとよばれる特殊なエンジンを搭載しています。
また図1における緑枠の部分については、Kria SOMとよばれるモジュール製品です。こちらは評価ボードという形ではなく、量産対応のものという形でリリースをしています。
このように、AMDはデバイス単体の製品開発からSoCまで、幅広い製品をリリースし続けています。
FPGAおよびSoCの特徴の一つとしては、長期供給が挙げられます。
AMD社は、15年以上の供給をポリシーとして継続しており、Spartan™ 6および7シリーズにおいては、少なくとも2030年、2040年まで供給することを発表しています。
Spartan 6は2009年にリリースされ、2024年現在で15年目を迎えますが、20年を超える供給を約束しています。今まで通り、また今後も安心してご検討いただけます。
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出典:
Support (xilinx.com)
AMD Extends Spartan 6 Product Lifecycle Through at... - AMD Community
AMD Supports New, Long Lifecycle FPGA Designs thro... - AMD Community
図2がデバイスのポートフォリオになります。
上側がSoCタイプのZynq、Versal、そして下側のFPGAはハイエンドからVirtex™、Kintex™、Artix、Spartanと幅広いファミリを用意しています。
今回はAMD社製品のうち、図2の赤枠の規模の小さいもの・安価なもの(ローコスト版)にフォーカスしてお話しします。
Spartan UltraScale+
Spartan UltraScale+は、AMD社が提供するローエンドFPGA製品ラインです。Altera社のCyclone®クラスに相当し、2040年まで少なくとも15年以上の長期供給が予定されています。
この製品の主な特徴は豊富なI/O数で、従来のAMD製品と比べて大幅に改善されており、300を超えるI/Oを持つモデルも存在します。また、高いデータレートと新しいメモリタイプにも対応しています。
製品ラインナップは、ロジックサイズとI/O数に基づいて多様化されており、主に以下の3つのカテゴリーに分類されます。
- 小サイズで多数のI/Oを持つモデル
- 中間的な特性を持つモデル
- トランシーバを搭載した比較的大きなモデル
図3は、各FPGAファミリにおけるI/O数とロジック規模について示しています。
図3で示されているように、Spartan UltraScale+は既存のSpartan 7やArtix 7と比較して、より大きなロジック規模とI/O数を提供しています。また、Artix UltraScale+と比べるとI/O数が多い傾向にあることが分かります。
この製品ラインは、多数のI/Oを必要とするアプリケーションに特に適しており、同時に幅広い規模のロジックニーズに対応できる柔軟性を備えています。
詳細な製品情報は公開されているプロダクトテーブルで確認でき、「Spartanクラス」で検索すれば見つけることができます。この製品は、多数のI/Oを必要とするが大規模なロジックは不要な用途に適しています。
Artix UltraScale+
次に、Artix UltraScale+について説明します。
この製品は先ほど紹介したように、同じUltraScale+世代のデバイスであり、既にリリースされているものです。トランシーバの数が多いわけではありませんが、トランシーバの搭載数が豊富で、新しいメモリ規格にも対応しています。小型パッケージでありながらも、高いパフォーマンスを実現している点が特徴です。
例えば、映像インタフェースとしてSBIやHDMIの変換用途に最適です。また、トランシーバを多く使用しつつ、デバイスサイズを小さくしたいといったニーズにも非常に適した製品です。
パッケージに関しては、従来の正方形ではなく、長方形の小型パッケージを採用しています。これはSMC社の技術を活用しており、他のデバイスでも採用されている技術です。特にスマートフォンなどでも使用されている技術であるため、決して新しいものではありませんが、信頼性が高く、広く普及しています。
図4は、縦軸がトランシーバチャンネル数、横軸がI/O数を表しています。
右上に向かうほど、デバイスの内部コストが増加し、それに伴いパッケージサイズも大きくなります。ただし、Artix UltraScale+は、小型パッケージながらも多数のトランシーバを搭載している点が他のデバイスと異なります。
比較として、図4の緑枠の部分がArtix 7を示し、青枠の部分がArtix UltraScale+を示しています。トランシーバチャンネル数が多い分、パッケージサイズがコンパクトであることがわかります。
外部的には、9×9から27×27のパッケージオプションが用意されています。
こちらが製品のプロダクトテーブルであり、小型で長方形の薄型パッケージが特徴です。緑色で示した部分が、そのパッケージに該当します。
Zynq UltraScale+ MPSoC
Zynq UltraScale+ MPSoCは、UltraScale+ファミリに属する製品であり、複数のカテゴリーに分かれた構成を持っています。特定のコアを基に分類されており、製品ラインナップはパッケージのサイズやロジックに応じて展開されています。
採用事例としては、カメラメーカーが小型薄型長方形のパッケージを採用しており、イメージセンサーからの画像入力を基にパソコンやカードに出力するシステムが小さな基板に実装されています。
Zynq UltraScale+ MPSoCのメリットは、フレキシブルな構成が取れ、データ共有が容易なアーキテクチャを持っている点です。複数のCPUとメモリへのアクセスが可能で、設計の自由度が高いデバイスです。
また、紙幣識別装置やオシロスコープなど、身近な製品にも採用されています。SoCを導入することで、性能向上だけでなくコスト削減にもつながり、基板枚数の削減やメモリ共有による効率化が図られています。これにより、システム全体のコストを削減できた事例もあります。
以下に、AMD社のSoC導入における採用事例を新紙幣識別装置とオシロスコープの例を用いて紹介します。
紙幣識別装置
コスト50%削減 | 従来は2枚基板。1枚基板への統合で基板サイズも縮小。 |
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2.5倍の性能向上 | 600枚/分→1500枚/分 CPU/FPGAが同じメモリにアクセス可能。 |
15%電力削減 | 性能向上、コスト削減に加え、システム電力も低減。 |
オシロスコープ
性能向上 | 波形表示回数を10-12倍。UI応答性改善。 |
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データ共有性 | エントリーレベルに搭載可能なコストvs性能を実現。 |
長期供給性 | 費用対効果だけでなく、長期的な供給サパートナーを検討。 |
最終製品に採用するには、アーキテクチャの変更が高いハードルとなる可能性がありますが、具体的な導入事例や方法について興味があれば、ぜひお問い合わせください。
Kria SOM
Kriaはモジュール製品で、ファンが付いた評価用モジュールと、量産対応のモジュールがあります。Kriaのモジュールは、評価キットを使ってデバイスを評価し、仕様に満足すればそのまま量産に移行できる設計です。モジュールを搭載するキャリアボードがあれば、簡単に動作させることが可能です。
FPGAの開発では、BGパッケージや基板設計が複雑になることが多いですが、Kriaモジュールには必要なメモリや電源部品が組み込まれているため、複雑な配線や設計作業から解放され、すぐに使用できるのが特徴です。
モジュールのサイズは、大きい方が名刺サイズ程度で、小さい方はそれよりも約60%のサイズです。小さいモジュールにはエンクロージャーが付属しており、必要に応じてヒートシンクを取り付けることもできます。
ソフトプロセッサIP
MicroBlaze™ processorは、FPGAの領域を利用して構築されるソフトプロセッサで、長期供給が可能な点が特徴です。FPGA内にCPUとして組み込むことができ、マイクロコントローラータイプのアプリケーションプリセットとして3つのタイプが用意されています。ロジックリソースの使用量は複雑さに応じて増加しますが、これを活用することで設計スパンを延命させることが可能です。
現在使っているFPGAの内容を次の世代のFPGAに移行することも可能であり、ハードウェア資産としてCPUを他のFPGAに移行できるため、設計資産を長期間活用できます。外部環境や電圧の違いなどは必要に応じて対応する必要がありますが、基本的には中身をそのまま移行できます。
Armのようなハイエンドコアを必要としない場合、このMicroBlaze processorを使うことは有効です。また、最近話題となっているRISC-Vにも対応したバージョンのMicroBlaze processorが無償で提供されています。これにより、将来的な拡張性や互換性も確保されています。
資料ダウンロード
本ブログでご紹介した内容を資料で確認されたい場合は、以下よりダウンロードが可能です。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
今回ご紹介したAMD社のFPGAおよびSoCソリューションは、コスト効率と長期供給という2つの重要な要素を両立しながら、産業用途や組み込みシステム開発者に大きなメリットを提供します。
Spartan UltraScale+やArtix UltraScale+といったローコスト製品から、Zynq UltraScale+ MPSoCやKria SOMといった高度に統合されたソリューションまで、幅広いラインナップが揃っており、さまざまなプロジェクトのニーズに柔軟に対応可能です。
特に、長期供給が保証されているこれらの製品は、将来の製品サイクルにおいても安心してご利用いただけます。
また、MicroBlaze processorのようなソフトプロセッサIPは、設計資産を次世代デバイスに移行できる点で、長期的なプロジェクトにおいて重要な役割を果たします。
今後もPALTEKではAMD社の最新情報やTipsをお届けしていきます。
最後までご覧いただきありがとうございました!