PCIeを理解する~規格・構成・転送レートの基礎知識~

みなさん、こんにちは。
本ブログでは、PCI Expressについてわかりやすく解説していきます。
コンピュータからサーバー、組み込み機器、産業用機器まで、CPUやGPU、ストレージなど、各デバイスの高速なデータのやり取りは不可欠です。その中心的な役割を担っているのが「PCI Express(PCIe)」です。
ページ下部にPCIeに関する詳細なダウンロード資料をご用意しておりますので、ぜひ最後までご覧ください。
それでは始めましょう!
1. PCIeとは
PCI Express(以降、PCIe)は広く利用されていたPCIをさらに高速通信ができるように置き換える目的で開発されたシリアル転送インタフェースです。
Intel社が3GIO(The 3rd Generation I/O)の名称で開発を行っていましたが、PCIバスを継承する技術としてPCI-SIGに提案され、2002年に正式にPCI Expressとして規格化されました。
PCIeには複数の世代の規格があり、それぞれ Generation1 (Gen1)、Generation2 (Gen2)、Generation3 (Gen3)、Generation4 (Gen4)、Generation5 (Gen5)、Generation6 (Gen6)と呼ばれています。
2. PCIeが誕生した理由
PCIeが誕生した理由はPCIが深く関係しています。
PCIは長い間業界標準として使用されてきました。しかし、高速CPU・メモリ、高性能グラフィックスなどの高速な帯域幅を必要とするアプリケーションの普及により、PCIがボトルネックとなりつつありました。また、PCIはパラレル転送方式のため、スキューの発生やEMC問題などを抱えていました。そこで誕生したのがPCIeです。
PCIeはPCIの抱えていた問題を改善し、よりハイパフォーマンスな転送を実現しています。
3. システム構成
以下に、PCIeのシステム構成について示します。

Root Complex
(ルートコンプレックス)
システムのI/O階層で最上位に位置
CPUやメモリ・サブシステムをI/Oとして接続
Endpoint
(エンドポイント)
システムのI/O階層で末端に位置
Root ComplexやSwitchに接続
Switch
(スウィッチ)
PCI Expressのポートを拡張するために使用
ポート間でのルーティング管理を行う
Bridge
(ブリッジ)
システムのI/O階層で最上位に位置
CPUやメモリ・サブシステムをI/Oとして接続
4. ポイントツーポイント接続
PCIeの基本となるのは、片方向のポイントツーポイント接続を、双方向分となるように2本単位(この最小構成を「レーン」と呼ぶ)でまとめた転送方式です。

それぞれの伝送路のデータ幅は差動駆動されるシリアル接続となっており、伝送路をシリアル化することで信号線の数を減らすことができ、高性能と低価格の実現が可能です。
5. PCIe Gen5とGen6について
PCIe Gen5は2019年5月にPCI-SIGにより仕様が正式に完成し、2021年後半から実用化が始まりました。
主な特徴は以下の通りです。
- Gen4と比較して2倍の転送帯域(32Gbits/s)を実現
- サーバー、データセンター向けの高性能コンピューティングへの対応強化
- 128b/130bエンコーディングの継続採用によるGen4との互換性維持
- 高速化に伴う信号品質確保のための電気的要件の厳格化
- より効率的な電力管理機能
PCIe Gen6は2022年1月にPCI-SIGにより仕様が発表され、2024年から初期実装が始まり、今後数年間で本格的な普及が見込まれています。以下が主な革新点です。
- Gen5からさらに2倍の転送帯域(64Gbits/s)を実現
- PAM4(4値パルス振幅変調)信号方式の採用
- 従来のNRZ(Non-Return to Zero)の2値信号から4値信号へ変更
- 信号あたりの情報量を2倍に増加
- FEC(前方誤り訂正)の導入
- 高速化による信号品質低下を補うエラー検出・訂正機能
- 3.85%のオーバーヘッドを伴うが信頼性が大幅に向上
- 低レイテンシーFLIT(Flow Control Unit)モードの導入
- AI/ML処理、大規模データ分析など次世代アプリケーション向けの最適化
これらの新世代PCIeは、大規模AI/ML処理、超高速ストレージ、次世代グラフィックカード、高性能ネットワーク接続などに応用され、特にデータセンターや高性能コンピューティング環境で大きな進化をもたらすことが期待されています。
6. 柔軟なレーン構成
PCIeの各リビジョンにおける、1レーン分のデータ・レートは以下のようになっております。
規格 | データレート |
---|---|
PCI Express 1.0 (Gen 1) | 2.5Gbits/s |
PCI Express 2.0 (Gen 2) | 5Gbits/s |
PCI Express 3.0 (Gen 3) | 8Gbits/s |
PCI Express 4.0 (Gen 4) | 16Gbits/s |
PCI Express 5.0 (Gen 5) | 32Gbits/s |
PCI Express 6.0 (Gen 6) | 64Gbits/s |
7. PCIeの転送レート
PCIeの実際の転送速度は、Gen 1/Gen 2では8b/10bエンコーディング(8bitのデータを10bitに変換する符号化)です。
Gen 3/Gen 4では128b/130bエンコーディング(128bitのデータを130bitに変換する符号化)に、クロック信号が埋め込まれているため、実際の帯域はGen 1/Gen 2では20%分、Gen 3/Gen 4では1.538%分減ることになります。
Gen 5も同様に128b/130bエンコーディングを採用しているため、Gen 4と同じく1.538%のオーバーヘッドがあります。一方、Gen 6ではPAM4(4値パルス振幅変調)とFEC(前方誤り訂正)が導入され、新たなエンコーディング方式が採用されています。
つまり、PCIeの実行データ転送レートはそれぞれ以下のようになります。(詳細は表1参照)
規格 | 実効転送レート | 計算式 |
---|---|---|
PCI Express 1.0 (Gen 1) | 2.0Gbits/s | 2.5Gbits/s×80% |
PCI Express 2.0 (Gen 2) | 4Gbits/s | 5Gbits/s×80% |
PCI Express 3.0 (Gen 3) | 7.877Gbits/s | 8Gbits/s×98.462% |
PCI Express 4.0 (Gen 4) | 15.754Gbits/s | 16Gbits/s×98.462% |
PCI Express 5.0 (Gen 5) | 31.508Gbits/s | 32Gbits/s×98.462% |
PCI Express 6.0 (Gen 6) | 約61.54Gbits/s | 64Gbits/s×96.15% ※FECオーバーヘッド3.85%考慮 |
PCIe | Width | ×1 | ×2 | ×4 | ×8 | ×16 | ×32 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
Gen1 | 理論値 | 2.5Gbps | 5.0Gbps | 10.0Gbps | 20.0Gbps | 40.0Gbps | 80.0Gbps |
実効値(8b/10b) | 2.0Gbps | 4.0Gbps | 8.0Gbps | 16.0Gbps | 32.0Gbps | 64.0Gbps | |
Gen2 | 理論値 | 5.0Gbps | 10.0Gbps | 20.0Gbps | 40.0Gbps | 80.0Gbps | 160.0Gbps |
実効値(8b/10b) | 4.0Gbps | 8.0Gbps | 16.0Gbps | 32.0Gbps | 64.0Gbps | 128.0Gbps | |
Gen3 | 理論値 | 8.0Gbps | 16.0Gbps | 32.0Gbps | 64.0Gbps | 128.0Gbps | 256.0Gbps |
実効値(120b/130b) | 7.877Gbps | 15.754Gbps | 31.508Gbps | 63.015Gbps | 126.031Gbps | 252.062Gbps | |
Gen4 | 理論値 | 16.0Gbps | 32.0Gbps | 64.0Gbps | 128.0Gbps | 256.0Gbps | 512.0Gbps |
実効値(120b/130b) | 15.754Gbps | 31.508Gbps | 63.015Gbps | 126.031Gbps | 252.062Gbps | 504.123Gbps | |
Gen5 | 理論値 | 32.0Gbps | 64.0Gbps | 128.0Gbps | 256.0Gbps | 512.0Gbps | 1024.0Gbps |
実効値(120b/130b) | 31.508Gbps | 63.015Gbps | 126.031Gbps | 252.062Gbps | 504.123Gbps | 1008.24Gbps | |
Gen6 | 理論値 | 64.0Gbps | 128.0Gbps | 256.0Gbps | 512.0Gbps | 1024.0Gbps | 2048.0Gbps |
実効値(120b/130b) | 63.015Gbps | 121.0Gbps | 242.0Gbps | 484.0Gbps | 968.0Gbps | 1936.0Gbps | |
Gen7 | 理論値 | 128.0Gbps | 256.0Gbps | 512.0Gbps | 768.0Gbps | 2048.0Gbps | 4096.0Gbps |
実効値(120b/130b) | 121.0Gbps | 242.0Gbps | 484.0Gbps | 726.0Gbps | 1936.0Gbps | 3872.0Gbps |
※Gen7: 2025年規格策定完了予定
8. スロットとレーン
レーン数の大きいスロットは、スロットのレーン数より少ないAdd-inボードを受け入れることができます。
PC(マザー側)ボード | |||||
---|---|---|---|---|---|
ADD-inボード | ×1 (1レーン) | ×2 (2レーン) | ×4 (4レーン) | ×8 (8レーン) | ×16 (16レーン) |
×1 (1レーン) | ○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
×2 (2レーン) | - | ○ | ○ | ○ | ○ |
×4 (4レーン) | - | - | ○ | ○ | ○ |
×8 (8レーン) | - | - | - | ○ | ○ |
×16 (16レーン) | - | - | - | - | ○ |
9. 主な用途と応用
グラフィックス処理
最も代表的な用途の一つが、GPUとの接続です。現代のゲーミングやクリエイティブワークでは、PCIe x16スロットを使用して、強力なグラフィックスカードと接続することで、高度な3D描画や映像処理を実現しています。
高速ストレージ
NVMe SSDは、PCIeインタフェースを利用することで、従来のSATA接続と比べて数倍から数十倍の転送速度を実現しています。これにより、大容量データの読み書きが飛躍的に高速化されました。
ネットワーク接続
10GbE以上の高速ネットワークカードも、PCIeを利用することで、高速なデータ通信を実現しています。データセンターやハイエンドワークステーションでは、必須の技術となっています。
10. まとめ
PCIeは、現代のコンピュータシステムにおいて不可欠な基幹技術です。その進化は、情報処理の速度と効率性を向上させています。また、AI/機械学習の発展に伴い、高速なデータ転送の需要は増加の一途をたどっています。Gen5およびGen6の実用化により、さらなる高速化と効率化が進み、PCI-SIGではGen7(128Gbits/s)の開発も既に始まっています。今後も、新たな技術革新とともに、さらなる発展が期待される分野といえるでしょう。
最後までご覧いただきありがとうございました!
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