Ethernet(イーサネット) の新規格 “10BASE-T1S”とは?

みなさん、こんにちは。
次世代の産業用ネットワーク、車載ネットワークとしてEthernet(イーサネット)デバイスを接続するための新規格「10BASE-T1S」をご存じでしょうか。このブログでは、10BASE-T1Sの特長や活用のメリットについてお伝えします。
目次
10BASE-T1Sとは
EthernetはIEEE802.3で標準化され、10BASE-T、100BASE-TX、1000BASE-Tは様々なシステムで採用され、機器のネットワーク化に広く貢献してきました。
10BASE-T1Sは、このEthernetを応用した新規格で、2020年2月にIEEE802.3cgによって標準化され、公開されています。
次世代の産業用ネットワーク、車載ネットワークとして活用でき、以下の特長やメリットがあります。
10BASE-T1Sの特長
①ケーブル
10BASE-T1Sは、従来のEthernet技術を継承しながら2芯1対のツイストペアケーブル(UTP/STP)を使用した通信が行えるシングルペアイーサネットとも呼ばれています。
これによりCATケーブルを使用するEthernetよりケーブルコストのコストダウンを図ることができます。
②コネクタ周辺構成
10BASE-T1Sでは、PHYとコネクタ間の周辺部品としてパルストランスを使用せず、AC結合用のコンデンサ(一例として100nF程度)に置き換わります。これにより、パルストランスが不要となり、RJ45コネクタの小型化、コストダウンも可能になります。
③マルチドロップ
10BASE-T1SはEthernetをベースとした規格ですが、スター型ではなくマルチドロップ接続に対応しています。図1. 8つのノードを接続する場合の比較イメージ図
(100BASE-TXではPHYが18 個必要なのに対し、10BASE-T1Sでは9個のPHYで構成が可能です。)
マルチドロップ接続は、RS-485やCANなどでも採用されています。
表1. 10BASE-T1Sとその他の通信方式比較
規格 | IEEE802.3u | IEEE802.3cg | ISO11898 ISO11519 |
ISO11898-2 | TIA/EIA-485 |
---|---|---|---|---|---|
100BASE-TX | 10BASE-T1S | CAN2.0B | CANFD | RS-485 | |
通信速度(最大) | 100Mbps | 10Mbps | 1Mbps *通信距離が長くなると速度が低下 |
規定なし *例 2Mbps, 5Mbps, 8Mbps |
10Mbps *通信距離が長くなると速度が低下 |
通信距離(最長) | 100m | 25m | 40m (@1Mbps) | *一般公開されている情報なし | 1200m |
接続方法 | ・1対1 ・スター型 |
・1対1 ・マルチドロップ接続 |
マルチドロップ接続 | マルチドロップ接続 | マルチドロップ接続 |
ケーブル | UTP(カテゴリー5) | 2芯1対のツイストペアUTP/STP | ツイストペアケーブル | ツイストペアケーブル | ツイストペアケーブル |
STP(IBM Type1, 2) | |||||
アクセス 制御方式 |
CSMA/CD | CSMA/CD, PLCA | CSMA/CA | CSMA/CA | ソフトウェアで制御 |
Ethernet システムからの プロトコル変換 |
不要 | 不要 | 必要 | 必要 | 必要 |
用途 | 産業機器/ 民生機器 |
車載機器/ 産業機器 |
車載機器/ 産業機器 |
車載機器 | 産業機器 |
表 1 より10BASE-T1Sは10Mbpsでマルチドロップ接続が可能です。
現在のシステムは基幹ネットワークがEthernetで構成されていることが多いため、10BASE-T1Sを活用することでプロトコル変換が不要になります。これらの特長により、10BASE-T1Sは1Mbps以上のスループットを要求するRS-485、CAN2.0の次世代規格として注目されています。
④PHY
10BASE-T1Sでは、他のEthernetで使っているEthernet MACやプロトコルスタックをそのまま使うことができます。
図2のように物理層(PHY層)を10BASE-T1S専用PHYを使用することでEthernet MACやソフトウェアスタックなど従来のEthernet資産を流用することができます。物理層衝突回避機能(PLCA)は10BASE-T1S専用PHY側に内蔵されています。
図2. 10BASE-T1S PHYとCPUの接続図
出典:Microchip社 LAN8670 Datasheet 、IEEE802.3cg を参考に作成
10BASE-T1Sのメリット
・Ethernetベースで通信を統一
10BASE-T1Sは末端の機器へのアクセスをEthernet 経由で行うことができます。
これまでは図3のようにメディアごとのプロトコルへの変換が必要でしたが、図4のようにEthernetプロトコルとして統一することができます。これによりこれは設計工数の観点やセキュリティ保全の観点からも非常に便利になり、アーキテクチャがシンプルになることで設計リスクを低減することができます。
図3. 従来のネットワーク
図4. 10BASE-T1Sを導入した場合のネットワーク
・コスト削減が可能
前項で述べたようにケーブルやコネクタでのスペース、重量、コストの削減が可能です。
加えて、システムのネットワークをEthernetで構成することで、異なるメディア間に必要であったゲートウェイが不要になります。
また、マルチドロップ接続により、高価なスイッチの必要性が減り、スケーラビリティが高まります。
最後に
最後に10BASE-T1Sについてまとめを記載します。
まとめ
- 1マルチドロップ接続が可能
- 2通信速度は10Mbps
- 3Ethernetベースに通信を統一(プロトコル変更不要)
- 4従来のEthernetより物理層がシンプルなため、スペース、重量、コストを削減
10BASE-T1S PHY製品はMicrochip社よりリリースされています。
詳しくは下記URLをご参照ください。
LAN8670
https://www.microchip.com/en-us/product/lan8670
LAN8671
https://www.microchip.com/en-us/product/lan8671
LAN8672
https://www.microchip.com/en-us/product/lan8672
Microchip 社 10base-T1S PHYは3種類のラインナップがあるため、表2に仕様比較を掲載します。
表2 Microchip 社 10Base-T1S PHY ラインナップ
品名 | Package | MII対応 | RMII対応 | PLCA対応 | 周囲動作温度 TA-40~125℃ |
---|---|---|---|---|---|
LAN8670 | 32ピンVQFN 5mm x 5mm x 1mm |
〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
LAN8671 | 24ピンVQFN 4mm x 4mm x 2.6mm |
〇 | 〇 | 〇 | |
LAN8672 | 36ピンVQFN 6mm x 6mm x 1mm |
〇 | 〇 | 〇 |
Microchip 社10Base-T1S 規格紹介動画はこちら↓
YouTube動画はChromeまたはFirefoxでご覧ください。
いかがでしょうか。
10Base-T1S は、マルチドロップ接続が可能で、Ethernetベースで通信を統一しているためプロトコル変更する必要がなく、設計工数の観点やセキュリティ保全の観点からも非常に便利になりました。また、2芯1対ケーブルですから既存ケーブルコスト、システム構成全体でのコストを削減することもできます。
最後までご覧いただきありがとうございました!
今回紹介しました10BASE-T1S PHY製品はMicrochip社よりリリースされていますため、ご興味がありましたら以下までお問い合わせください。