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リチウムイオン電池のリアルタイムシュミレータの活用法

リチウムイオン電池のリアルタイムシュミレータの活用法

今回は様々な機器で使用されているバッテリの安全性・信頼性を担保するために実施する試験に、モデルベース技術を活用する方法について紹介します。具体的には、MathWorks社のMATLAB®/Simulnik®対応した当社のFPGA高速演算リアルタイムシミュレータ「 MODEL CUBE」を活用したバッテリエミュレータについて紹介します。

目次

バッテリについて

まず、バッテリは繰り返し充電、放電できるものとできないものに大別されます。
繰り返し充放電ができるバッテリは、一般的に二次電池や蓄電池とも呼ばれています。 代表例として鉛畜電池、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドニウム電池、全個体電池などがあります。

特にリチウムイオン電池は、高寿命、小型化、高エネルギー密度などの特性から幅広く使用されています。私たちの身近にある家電製品、電気自動車などに搭載されているのは皆様もご存知のことだと思います。

このリチウムイオン電池にも様々な種類があることをご存知でしょうか。

リチウムイオン電池

リチウムイオン電池は正極集電体、正極活物質、負極集電体、負極活物質、電解液、セパレータなどで構成されており、各構成素材により、性能が異なります。特に正極活物質、負極活物質などで変わります。リチウムイオン電池ではコスト、安全性、エネルギー密度、サイクル寿命、低高温動作、パフォーマンスなどで比較され、電池の構造と素材などについて日々研究されています。

世の中にどのようなリチウムイオン電池が存在しているか代表例を以下に記載します。


表1.リチウムイオン電池の代表例

※スクロールしてご覧ください

電池種類
特徴
正極活
物質
セパレータ 負極活
物質
正極集電体 負極集電体 電解液
リン酸鉄
リチウムイオン電池


低価格。長時間放置しても放電可能。低温動作も可能。サイクル寿命は1,000~2,000回程度。
LiFePO4
リン酸鉄リチウム
ポリオレフィン材質微多孔膜系、ポリエチレン、ポリプロピレンなど 黒鉛、カーボン、チタン酸リチウムなど アルミニウムなど
など
環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合溶媒にLiPF6やLiBF4などの電解質塩を溶解した電解液などの有機溶媒
コバルト酸
リチウムイオン電池


製造が簡単で大きな起電力が出力可能。200℃以上の高温環境下で熱分解し、酸素を放出する。サイクル寿命は500~1000回程度。
LiCoO2
コバルト酸リチウム
ポリオレフィン材質微多孔膜系、ポリエチレン、ポリプロピレンなど 黒鉛、カーボン、チタン酸リチウムなど アルミニウムなど
など
環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合溶媒にLiPF6やLiBF4などの電解質塩を溶解した電解液などの有機溶媒
ニッケル酸
リチウムイオン電池


エネルギー密度が高い。熱に課題あり。サイクル寿命は500回程度。
LiNiO2
ニッケル酸リチウム
ポリオレフィン材質微多孔膜系、ポリエチレン、ポリプロピレンなど 黒鉛、カーボン、チタン酸リチウムなど アルミニウムなど
など
環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合溶媒にLiPF6やLiBF4などの電解質塩を溶解した電解液などの有機溶媒
マンガン酸
リチウムイオン電池


安全性が高い。材料費用としてコバルトやニッケルと比較して安価(コバルトの約1/10、ニッケルの約1/5)。サイクル寿命は300~700回程度。
LiMn2O4
マンガン酸リチウム
ポリオレフィン材質微多孔膜系、ポリエチレン、ポリプロピレンなど 黒鉛、カーボン、チタン酸リチウムなど アルミニウムなど
など
環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合溶媒にLiPF6やLiBF4などの電解質塩を溶解した電解液などの有機溶媒
三元リチウム電池

エネルギー密度が高く、コバルト酸リチウムよりもサイクル性能が優れ、容量もはるかに高い。サイクル寿命は1,000~2,000回程度。
Li(Ni-Mn-Co)O2
リチウムマンガン系スピネル型酸化物
ポリオレフィン材質微多孔膜系、ポリエチレン、ポリプロピレンなど 黒鉛、カーボン、チタン酸リチウムなど アルミニウムなど
など
環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合溶媒にLiPF6やLiBF4などの電解質塩を溶解した電解液などの有機溶媒
ニッケルコバルト
アルミニウム酸
リチウムイオン電池


耐熱性が高い電池で高エネルギー密度に優れています。低温時の放電特性に優れている。サイクル寿命は1,000~2,000回程度。
NCA ポリオレフィン材質微多孔膜系、ポリエチレン、ポリプロピレンなど 黒鉛、カーボン、チタン酸リチウムなど アルミニウムなど
など
環状炭酸エステルと鎖状炭酸エステルの混合溶媒にLiPF6やLiBF4などの電解質塩を溶解した電解液などの有機溶媒

リチウムイオン電池は放電と充電動作で負極、正極間のリチウムイオンLi ⁺の動作が異なります。
放電時は以下の図1に記載している通り、負極の黒鉛などの炭素素材に付着しているリチウムイオンが正極側に移動し、正極側に吸蔵され、電力が放電されます。

図1. リチウムイオン放電時のリチウムイオンの流れ

図1. リチウムイオン放電時のリチウムイオンの流れ

充電時は図2に記載している通り、正極の素材に付着されているリチウムイオンLi ⁺が負極側に移動し、 負極側に吸蔵され、正極と負極の間に電位差が生じ、電力が充電されます。

図2. リチウムイオン充電時のリチウムイオンの流れ

図2. リチウムイオン充電時のリチウムイオンの流れ


リチウムイオン電池市場

リチウムイオン電池の市場規模は、2021年の411億米ドルから年平均成長率(CAGR)12.3%で成長し、2030年には1,166億米ドルに達すると予測されています。
特に電気自動車市場がリチウムイオン電池市場規模を底上げしています。

リチウムイオン電池のサプライチェーンは国別ランキングでも中国、日本、韓国の3国が世界市場をけん引しています。


リチウムイオン電池の危険性

リチウムイオン電池の危険性について考えてみますと、近年、中国でのEV発火事故、韓国での大型蓄電システム火災などが報道されているなど、リチウムイオン電池の発火は特に正極、負極材料の劣化から発火につながる可能性があり、電極素材や電池構造に依存しますが、温度環境、過充電などで発火する可能性があります。

特に温度環境、過充電などは注意が必要です。


  • 高温環境下で連続放電を行うと正極劣化につながる可能性があり、ガス漏れの危険がある
  • 低温環境下で充電を行うことで負極劣化につながる可能性があり、発火の恐れがある
  • 過充電を行うことで負極劣化につながる可能性があり、発火の恐れがある


「平成28年度 特許出願技術動向調査報告書(概要)電池の試験及び状態検出」(特許庁)の 「3.電池の状態検出の概要」に記載がある通り、バッテリを搭載する装置において様々なバッテリの状態を模擬し、負荷装置の試験を行うことが求められています。

以下は該当部分の抜粋内容です。

“電池の状態検出は、電池の使用時において、電池に対して現在の充電状態、劣化状態、異常状態等を検出する技術であり、電池が搭載された機器や設備(自動車等を含む)が安定・安全な状態にあるか否かをモニタリングする目的で行われることが多い。

電池の状態検出は、電池の電流、電圧そして温度等の電気的なモニタリングを実施して、充電率(SOC:State of Charge)、劣化度・健全度(SOH:State of Health)、充放電(入出力)可能電力(SOP:State of Power)の推定を行うことであり、また、これらは充放電制御による過充電・過放電対策等の安全性の担保や故障診断、寿命の推定、さらには数多くの直並列された電池間の電圧あるいは容量バランス制御などに使用される。

この中で、状態検出の最も主要な情報としては、電流、電圧そして温度を計測することによって得られる充電状態(SOC)と内部抵抗の検出があり、充電状態(SOC)は、電池の残量や航続距離(使用可能距離)及び SOH:劣化度の推定、そして、内部抵抗は SOH:劣化度の推定及び SOP:充放電(入出力)可能電力の推定などにそれぞれ使用される。

充電状態(SOC)の推定方法に関しては、下記の方法がある。
(1)充放電試験によるもの
(2)電流積算法によるもの
(3)開放電圧(OCV)の測定に基づくもの
(4)端子電圧の測定によるもの
(5)モデルに基づくもの

また、内部抵抗の推定方法に関しては、下記の方法がある。
(1)交流インピーダンス測定によるもの
(2)モデルに基づき、適応デジタルフィルタ(カルマンフィルタ等)で求めるもの
(3)I-V 特性(電流電圧特性)からの線形回帰(I-V 特性の直線の傾き)によるもの
(4)ステップ応答によるもの

また、SOH は充電状態(SOC)の経時変化あるいは/及び内部抵抗の経時的増加、SOP はSOC と内部抵抗を用いて推定されるが、SOH、SOP 共に実用的には重要な数値であり、劣化度合いを含めたその時点での残量と入出力可能電力は、特に電気自動車などにおいては重要な数値である。

それぞれの方法は、幾つかの短所が有り、特に温度による変化、経時的変化等によって大きな影響を受けるので、精度、即時性(リアルタイム)、容易性(低コスト)を総合的に勘案して、推定方法を選択あるいは複数の推定方法を組み合わせて使用される。“

引用:特許庁、「第1章 調査概要 第2節 電池の試験及び状態検出の技術概要 3.電池の状態検出の概要」、
『平成28年度 特許出願技術動向調査報告書(概要) 電池の試験及び状態検出』、平成29年3月、P9


バッテリ試験でのモデルベース技術の活用

上述のようにバッテリの試験を行うことが大切なのですが、その際に活用できるのがモデルベース技術で、様々なバッテリの状態をモデルベース技術によりモデルとして構築することができます。

MathWorks社のSimulink®にて開発・評価されたバッテリモデルを当社製品「 MODEL CUBE」に搭載し、負荷装置の試験を行うことができます。また同様にバッテリマネージメントシステム(以下BMS)の試験に使用することも可能です。

バッテリの状態をモデル化したバッテリエミュレータの活用には、以下のようなメリット、課題があります。


1.バッテリエミュレータのメリット

  • 任意のSOC値からの充放電(テスト期間短縮 従来:数時間→数分)
  • 連続放電/連続充電
  • 過放電/過充電
  • 故障注入(任意のオープン/ショート状態)
  • モデルベースの活用(MathWorks社 Simulink®モデルの搭載)

2.現在のバッテリエミュレータ市場の課題

  • 大型システム: 大電力かつ多機能で非常に高額
  • 中型システム: 選択肢が少なく大型システムを選択しなければならない
  • 小型システム: 小電力なものが大多数で電力が不足

「MODEL CUBE」を活用したバッテリエミュレータ

MODEL CUBE」は当社が開発したMathWorks社のMATLAB®/Simulink®に対応したリアルタイムシミュレータです。「 MODEL CUBE」を活用し、バッテリエミュレータを構築することができます。

「MODEL CUBE」外観

「MODEL CUBE」外観


表2. 「MODEL CUBE」仕様表

項目 説明
演算・制御・I/O処理 AMD ザイリンクス社製 FPGA Kintex® UltraScale™
PC I/F USB2.0 ポート × 1ch
FPGA書き込みポート × 1ch
Gigabit Ethernet × 1ch
ECU I/F CAN2.0B
デジタル入力
デジタル出力
アナログ入力
アナログ出力
外観寸法 (W) 141 × (D)187 × (H)92 mm 
重量 1500g
消費電力 15W (参考値)
実装方法 HDL Coder、Xilinx VIVADO
最小ステップ時間 2us  (モデルに依存)

また「 MODEL CUBE」はバッテリエミュレータに求められる電力量と精度にあったコストバランスの取れた装置のため、バッテリエミュレータ市場が持つシステム規模の課題も解決します。

図4. バッテリエミュレータ市場

図3. バッテリエミュレータ市場


リン酸鉄、マンガン酸、コバルト酸、ニッケル酸、三元リチウムイオン等の素材による特性などは、Simulink ®バッテリモデルで構築します。
当社ではモデル受託開発も承っています。

※画像クリックで大きな画像が表示されます。

図5.Vフロー図で見たバッテリモデル開発・検証とバッテリモデルを活用した実機検証

図4.Vフロー図で見たバッテリモデル開発・検証とバッテリモデルを活用した実機検証


バッテリモデルを「MODEL CUBE」に搭載する

Simulink ®で開発したセルモデルは、HDL Coder のシェアリング機能や当社独自のモデル内でのシェアリング方式により、直列多セルのバッテリモデルも小型な「 MODEL CUBE」に搭載することが可能です。

図6.「MODEL CUBE」に搭載するバッテリモデル例

図5.「MODEL CUBE」に搭載するバッテリモデル例


まとめ

いかがでしたでしょうか。
本ブログではバッテリ試験でのモデルベース技術の活用について紹介しました。
MODEL CUBE」を活用したバッテリエミュレータを使用すると、手軽に負荷装置に電力を供給でき、回生電力の受電も含めた試験が行えます。

PCから専用操作ソフトウェア経由でバッテリモデルに任意のSOCを設定することで、実物バッテリでは非常に時間のかかっていた作業を大幅に短縮できます。
実物バッテリでは発火等の危険性がある環境温度、過充電、過放電等の状態での試験を、安全に行うことができます。

これにより過剰なシステムを導入することなく、コストバランスの取れた試験環境を構築することができます。
バッテリモデルはユーザーが開発した任意のモデルを搭載することができますし、バッテリモデルをお持ちでない場合は当社で受託開発も承っています。
バッテリエミュレータのデモのご依頼や「MODEL CUBE」については以下までお問い合わせください。

MODEL CUBEについてのお問い合わせ

最後までご覧いただきありがとうございました。

 

参考文献

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