RF(無線)デバイス入門:データシートの主要パラメータをゼロからわかりやすく解説

皆さん、こんにちは。
この記事ではRFデバイスのデータシートを初めて読む方向けに、Gain・P1dB・Noise Figureなど主要パラメータの意味をわかりやすく解説します。
この記事でわかること
- 電波(電磁波)の種類と周波数帯ごとの特性・用途の違い
- パワーアンプ・LNA・ミキサー・フィルターなど主要RFデバイスの役割
- Gain(利得)・P1dB・IP3(3次相互変調歪点)・Noise Figure などデータシート主要パラメータの意味
- Insertion Loss・Isolation・Rejection など汎用RFパラメータの読み方
- データシートを使った2製品間の基本的な考え方
今の世の中にはありとあらゆる無線通信の電波が飛び交っています。
一昔前、電話は回線も有線で本体と受話器もカールコード接続、ネットもLANケーブル接続、オーディオ機器(ヘッドフォン/イヤホン、マイク)もケーブルが伸びていて、業務用機器(センサ、会議システム、機器間接続一般)も専用/汎用ケーブルで接続していました。
現在これらはどんどん無線化が進んでおり、これに当初から無線であったラジオ/テレビ放送、業務/アマチュア無線、航空/海上/衛星通信、インフラ一般、さらにはレーダー等も加えれば「電波が飛び交っている」という表現は決して大げさではないと思います。
しかし、趣味も含めたRF設計職人の方々はいざしらず、仕事上の必要等で一般の方、初学の方がRF関連の領域に足を踏み入れると右も左もわからないことになるかもしれません。
エンジニアでも、0/1・電圧を中心としたデジタル畑出身の人が、連続したアナログ・電流/電圧の世界であるRFに触れるとかなり戸惑うことがあると聞きます。そしてかなりの苦手意識を持ってしまうとも。実際私がそうです。
また、「無線のデジタル化」というワードを時々聞くかもしれませんが、これは変調方式がデジタル化されたという意味で、最終的にその変調された信号を送受信するのは依然としてアナログの世界です。
そこで、本ブログでは今後初めてRFデバイスに触れる方向けに、設計者レベルの深い内容ではなく、まずはデータシートに記載されている基本パラメータの意味・概念に絞って解説していきます。苦手意識の払拭に少しでもお役に立てれば幸いです。
それでは、はじめましょう。
1. 無線RF(Radio Frequency)の歴史
無線通信の黎明期、アンテナから飛ばすための信号増幅は真空管で行っていました。ミキサー回路1つをとっても、抵抗・キャパシタ・インダクタを組み合わせた大規模なものでした。
その後、半導体が発明され、それら回路はシリコンチップ上に集積され、回路全体も小型化が可能になりました。と同時にこれらRFに関連するさまざまな特性が設計上の必要性から1960年頃からパラメータとして整理され、各デバイスのデータシート上に記載されるようになりました。
| 1837年 | モールス電信機発明、有線電信確立 |
|---|---|
| 1895年 | マルコーニが無線電信実験に成功 |
| 1901年 | 大西洋横断電信に成功(この時の受信アンテナは凧) |
| 1906年 | 第1回国際無線電信会議(遭難信号“SOS”策定) |
| 1912年 | 国内無線音声通信に成功(TYK式電信機) |
| 1920年代 | ラジオ放送開始 |
| 1930年代~1940年代 | 軍事無線通信、レーダーの発達 |
| 1950年代 | テレビ放送の中継回線に導入 |
| 1960年代 | 衛星通信の確立、アマチュア無線の広がり |
| 1987年 | NTTが携帯電話サービス開始 |
| 2001年 | 3G開始、モバイルデータ通信普及 |
| 2007年 | スマートフォン登場 |
| 2015年 | IoT向け無線(LPWA)拡大 |
| 2020年 | 5G商用化、ミリ波導入 |
| 2020年代 | 低軌道衛星通信、WiFi 7 |
| 2030年頃 | 6G実用化想定 |
2.電波(電磁波)と波長について
そもそもRFで送受信している電波とはなんでしょう?
一言で言えば光と同じ電磁波です。電磁波とは電場と磁場がお互いに影響し合いながら空間を伝播していくもので、波長によって以下のように区分されています。人間の目にはその一部だけを可視光として見ることができます。

出典:電磁波の周波数および波長による分類 Ajinori Tamachi,
CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons(参照日:2026-7-16)
RFで使用するのは一般に可視光よりも長波長側になります。(可視光通信も研究開発が進んでいます)
以下に、主な用途ごとの電波の区分と利用例を示します。
| 超長波(VLF) | 波長が長いので遠くまで地表に沿って届き、海中にもある程度到達する
電波航法(オメガ無線航法)(1997年運用終了)、潜水艦無線、標準電波、等で限定的に残存 |
|---|---|
| 長波(LF) | VLFと同じく遠くまで届き、電離層D層でも反射されて届く
長波ラジオ、船舶無線、電信、航空ビーコン、ロランC(運用終了) |
| 中波(MF) | 電離層E層で反射されるがD層には吸収される(D層は夜間消滅するので夜は遠方ラジオが聞ける)
AMラジオ放送、船舶向け気象情報 |
| 短波(HF) | 電離層E、F層で反射され、高層での反射なので地表と数回の反射を繰り返して地球の裏側まで到達 最近は衛星通信に置き換えが進む 短波ラジオ、航空無線、アマチュア無線 |
| 超短波 (VHF) |
これより短波長になると直進性が強くなり、見通し通信が基本 (よって東京のテレビ放送は、地球が球体であるため地方では映らない。) 旧アナログ地上波TV、FM ラジオ、移動体通信、無線航法(ILS)、VHF船舶無線 |
| 極超短波 (UHF) |
現在最も良く使われる帯域
デジタルテレビ放送、各種業務無線、GPS、気象衛星、携帯電話、軍用航空無線、 |
| センチ波 (SHF) |
指向性が高く、高速大容量通信が可能
BS/CS放送、無線LAN(Wi-Fi)、放送用中継回線、電波望遠鏡、気象レーダー、 Bluetooth、Wi‑Fi 6 / 7 |
| ミリ波 (EHF) |
減衰が大きく到達距離は短いが、非常に広い周波数帯域を使用可能
車載・各種レーダー、衛星通信、5Gミリ波通信、6G |
このように電波は、波長(周波数)によって性質が異なり、それぞれに適した用途で使用されますが、RFデバイスの基本パラメータ(利得、雑音、線形性など)は共通です。
3.主要RFデバイスの種類と役割(パワーアンプ・LNA・ミキサーなど)
一般に、アンプ、ミキサーといった基本機能のRFデバイスは機能ブロックやデバイス外観は非常にシンプルです。
以下はアンプデバイスの機能ブロック図の例ですが、機能を持つピンとしてはIN、OUT、GND、Vdet、Vg、Vdの6ピンしかありません。内部的にはアンプ素子を中心に、入出力のDC遮断やバイアス制御などがまとめて構成されています。
しかし、これらデバイスを組み合わせてRF回路を設計するのは高周波アナログの世界であり、洗練された設計を行えるのは熟練した職人技と言われます。

| アンテナ | デバイスではありませんが、物理的に電波を送信・受信する部品です。 |
|---|---|
| パワーアンプ (PA) |
送信RF信号をアンテナから飛ばせる電力に増幅するデバイスです。 一気に増幅することが難しい場合は複数段で構成することもあります。 |
| アッテネータ | アンテナで受信した信号強度を適切なレベルまで減衰させます。 |
| ローノイズアンプ(LNA) | 微弱な受信信号を増幅します。 アッテネータとローノイズアンプを組み合わせることで適切なダイナミックレンジの確保やインピーダンスの整合をとることもできます。 |
| ミキサー | オリジナルの送信データ(ベースバンド信号)を搬送波と乗算(周波数変換)し、実際にアンテナから飛ばすRF信号にします。 受信時は逆にRF信号から受信データ(ベースバンド信号)と搬送波を周波数変換して抽出します。 両者とも一気に行うのが難しい場合は複数段に分ける場合があります(スーパーヘテロダイン方式)。 |
| 発振器 | 搬送波を生成します |
| フィルター | 目的の周波数だけ通過させ、それ以外の周波数成分を除去します。 特定の周波数だけ通すものはBand Filter、Low側を通す(High側をカット)するものはLPF(Low Pass Filter)、High側を通す(Low側をカット)するものはHPF(High Pass Filter)と呼ばれます。 |
| スイッチ | 1本のアンテナを送受で切り替えて使う場合や、2つのRF回路を1つのアンテナで交互に切り替えて使う場合に使用します。 |
他にもRF関連の部品はありますが、以上が代表的なところです。
4.RFデバイス主要パラメータ(パワーアンプ)
ここではMACOM社のパワーアンプ、MAAP-011341( Ka-band PA)を例に、パラメータの意味を確認していきます。



Gain
利得や増幅率とも呼ばれます。dB(対数電力比)で表し、信号をどのくらい増幅できるのかを表します。
28dBだと電力としては入力信号を630.96倍に増幅することになります。
Gain Flatness
周波数によるGainのばらつきを表します。
理想的なアンプはどの周波数においてもGainが一定ですが、現実のデバイスは必ず周波数にGainが依存します。
±0.25dBの場合、電力比で最大約±6%変動することを意味します。
Input/Output Return Loss
RFIN入力時/RFOUT出力時の信号反射です。数値は大きいほうが良い(反射が少ない)です。
10dBの場合、入力された信号電力のうち10%が反射(loss)されます。
回路インピーダンスを整合することで実用上問題ない程度に低減が可能です。
RFデバイスだけでなく、一般のデバイス・部品にも使われる指標です。
P1dB
出力が理想特性から1dB低下した点の出力値です。
理想的なアンプは入力を大きくしていけばその分だけ出力もリニア(直線的に)に増幅します。しかし現実のアンプには必ず出力限度があり、それに近い領域になると出力が頭打ちになります。
この理想直線から1dB落ちる点の出力値がP1dBです。
P1dB以下を線形領域と呼び、これを超えると非線形性が顕在化し始めます。一部デバイスはほぼ完全に飽和する領域という意味でP3dBも記載することがあります。

Pout
定格出力(実用最大出力)です。
規定条件下で実用上取り出せる最大出力を示します。規定は通常データシートに記載されています(必ずしも線形動作を保証する出力範囲ではありません)。
IP3(ThirdOrder Intercept Point、3次相互変調歪点)
3次相互変調歪(IM3)と基本波の直線近似グラフを伸ばしていった時に、両者の交差する仮想点(実際のデバイスはその前に飽和)です。やや難しい概念ですがアンプ等の性能を示す重要な指標です。
IP3性能試験として2周波数入力試験(Two-Tone Test)というものが用いられます。
実際のRF信号は搬送波をベースバンド信号で変調をかけているため、単純な正弦波ではありません。搬送波周波数を中心に様々な周波数成分とその高調波(倍数)成分が含まれ、何よりデバイス自身が完全な線形性を持つわけではありません。
ただ、それらのRF信号に含まれ得る周波数成分をすべて考慮したシミュレーションや評価は非現実的なので、2つの近い周波数の正弦波が入力された、と仮定した試験を行います。
具体的には2周波数を入力時は

と表され、この時非線形特性一般表示は

とあらわされます。
2周波数入力の合成式を非線形特性の一般式に代入すると、
1次項(x):元々の入力周波数
2次項(x^2):目的外周波数だが、元々の周波数から遠く離れた場所に出るのでフィルター等で除去可能
3次項(x^3):オリジナルの周波数に非常に近いところに出てしまう目的外周波数で除去が困難
この3次周波数成分(IM3)出力と基本波出力の直線近似グラフを伸ばしていった時に交差すると想定される点の出力がIP3です。



なお、4次項、5次項、・・・以降の相互変調歪も出ますが、周波数が基本波から離れることが多く強度が小さいので設計上は通常問題になりません。
Noise Figure(NF)
雑音指数と呼ばれ、増幅の過程で信号対雑音比(S/N)がどれだけ劣化するか(ノイズを作ってしまうか)の指標です。
特に受信時先頭段であるLNA等では重要で、ここでS/Nが劣化してしまうと後段では取り戻せません。
5.RFデバイス主要パラメータ(その他)
ここまでパワーアンプを題材にRFパラメータを解説してきましたが、他のRF製品の仕様に登場する主なパラメータも簡単に挙げておきます。
Conversion Loss(CL)/Conversion Gain(CG) (単位:dB)
ミキサーで周波数変換する際の損失(パッシブミキサー)および利得(アクティブミキサー)です。
LO Power(Local Oscillator Power:局部発振器) (単位:dBm)
ミキサーのローカル発振器から供給される電力です。
パッシブ型ミキサーにおいて、LO Powerが適切でないと変換損失や不要周波数の増大を招きます。
Isolation (単位:dB)
ミキサーやスイッチで、目的の信号間がどれだけ絶縁されているかの指標です。
ミキサーではIF、LO、RF各信号間、SwitchではOFF(Open)になっている信号間の絶縁を意味します。
大きいほうが良好です。 この値が小さいと信号が漏れて他の信号と混ざってしまい、効率や品質が落ちてしまいます。


減衰量(Attenuation Level) (単位:dB)
アッテネータで入力されたRF電力をどれだけ減衰させるかの量です。
Insertion Loss (単位:dB)
RFデバイスだけでなく、一般のデバイス・部品にも使われる指標です。小さいほうが良好です。
デバイスに信号を入力した際、出力されるまでにどのくらい失われるかの割合です。
0.5dBの場合、入力された信号電力のうち約11%が失われて出力されることを意味します。
カットオフ周波数 (Cutoff Frequency) (単位:Hz)
フィルタデバイスで、透過させる周波数帯(Passband)とカットする周波数帯(Stopband)の境目の周波数です。
通過信号の振幅が約70%(電力だと50%)にまで落ちる周波数です。
リップル(Ripple) (単位:dB)
理想的なフィルタデバイスはPassband内であればどの周波数でも一様に通過させますが、実際のデバイスではある程度周波数によって通過させる割合が異なります。 この指標がRippleです。小さいほど良好です。
リジェクション(Rejection) (単位:dB)
Rippleと同様、実際のデバイスではStopband内の周波数でも100%カットすることはできません。
カット(抑圧)できる割合の指標がRejectionです。大きいほど良好です。
スイッチングスピード (Switching Speed) (単位:us~ns)
一般には制御信号が入力されてから目的の回路が ON もしくはOFFになるのにかかる時間です。
SPDT RFスイッチの場合は、出力先ポートを切り替えるのに必要な時間となります。
6.まとめ:RFデバイスのデータシートを読むための第一歩
いかがでしたか。
無線の簡単な歴史と電波(電磁波)の種類、そしてRFデバイスの主要パラメータを簡単に解説しました。
「これでRF回路の設計まで万全・・・!」とはとてもいきませんが、少なくともデータシート上の仕様の意味するところと2つのデバイスの単純な性能比較程度は行えると思います。
ここまで読んでいただいたあなたが、生粋のRFエンジニアを目指すのか、他分野技術から移ってきたのか、あるいは業務やセールスの基礎知識として必要だったのか、はたまた全く別の事柄を調べていて偶然たどり着いたのかはわかりません。しかし、そのいずれの場合でも途中で挫折することなく読み進むことができるよう初歩的な事項に絞って解説したつもりです。
何よりも苦手意識が消えてくれれば書いた身としては嬉しい限りです。
今後のRFを含むアナログ回路の学習・仕事の礎となれば幸いです。
今回はMACOM社のパワーアンプ製品を例にRFデバイスの主要パラメータを解説しましたが、MACOM社ではPA、LNA、ミキサー、アッテネータ、スイッチ、フィルターなど幅広いRF・マイクロ波・ミリ波向け製品をラインナップしています。ぜひ下記よりご覧ください。




