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OCXOおよびTCXOにおける経年変化について

OCXOおよびTCXOにおける経年変化について

1. はじめに

アプリケーションやシステムを構築するうえで、周波数安定度はローカルクロックの必須パラメータと考えられています。しかし、周波数エージングとよばれる長期的な周波数偏差は、ローカルクロックに影響を与えます。最も安定したOCXO(オーブン制御発振器)でさえ、クロックの周波数を増減させるエージング特性があり、それによってシステムの周波数安定性が損なわれます。

本ブログでは、SiTime社の MEMS製品が従来の水晶製品よりもエージング性能が優れている理由と、SiTime社がより堅牢な経年変化における補償ソリューションを提供できる理由を紹介します。

まず、水晶ベースとMEMSベースの両方の発振器の周波数偏差に影響を与える重要な要因について説明します。
次に、数学的経年変化モデルを用いて、MEMSおよび水晶発振器の長期経年変化性能の予測値と、実際の経年変化測定結果を比較します。
最後に、数学的老化モデルの外挿により、長期的な性能予測を行います。

2. 経年変化の理論とは

経年変化(エージング)とは、時間の経過に伴う周波数の変化と定義されています。経年変化は、用途に応じてシステム設計時に、影響を考慮する必要があります。
国際無線諮問委員会(CCIR)では、軍用仕様の水晶発振器であるMIL-0-55310[1]に経年変化とドリフトを組み込んでいます。

本ブログでは、経年変化に関する情報を提供するとともに、水晶発振器とMEMS発振器の両方の共振器構造に焦点をあてています。

2.1. 水晶振動子とは

水晶振動子の発振メカニズムとして、圧電効果があります。圧電効果とは、材料中の機械的エネルギーと電気的エネルギーのエネルギー変換の物理現象のことです。

水晶振動子には、図1に示すように多くの材料が含まれ、金属膜(AuまたはAg)が電界を供給します。
導電性エポキシ接着剤が構造を固定し、電気信号を接続します。リッドとセラミックパッケージは、外部環境からデバイスを保護します。水晶振動子の性能は、ATカットやSCカットなど、さまざまなカット角度によって、さまざまな用途に最適化することができます。

図1. 水晶発振器の構造(断面図)

常温での封止工程において、以下の対策が講じられていますが、それでも十分ではなく、これらの対策を施しても、長期的な安定性が十分に確保されているとはいえない状況にあります。

  • 内部を真空または窒素ガスで置換することで、外気の影響を最小限に抑える。
  • 導電性接着剤の経年変化による電極表面の汚染を防ぐため、アウターガスを使用する。
  • 工程の要所でエージング工程やアニール工程を入れ、水晶振動子自体と接着剤の両方を安定化させる。

<データ例 20MHz 3225サイズTCXO>

導電性接着剤の経年劣化には、以下のような問題があります。

  • アウターガスによる汚染以外にも、接着剤自体が硬化したり脆弱化したりする。
  • 接着剤の劣化により、水晶振動子を保持している部分を通じて、水晶に加わる応力が変化する。
  • 水晶振動子自身も時間の経過とともに、加工時に生じた歪みが取れ、内部応力が解放されることで、振動数が変化する。

つまり、接着剤の劣化だけでなく、水晶振動子自体の経年変化も無視できない問題となっています。

経年変化には、図2に示すように、周波数対時間の傾きが負または正に変化する成分があります[2]

経年変化には主に2つの理由があります。
ひとつは質量負荷、もうひとつは応力の軽減です。
性能が応力によって支配されている場合、エージング曲線はA(t)に近づき、性能が質量負荷によって支配されている場合、エージング曲線はB(t)に近づきます。
最初の10日間は、熱と応力の影響により、周波数対時間の変化が正の傾きを持ちます。

しかし、経時的に質量負荷効果の割合が増加するにつれて、老化挙動は徐々に単調になり、10日後には負の勾配に変化します。最終的には、応力緩和による正の寄与が減少するため、エージング率は低下し続けます。

図2. 経年変化について

図3. 水晶発振器の経年変化

水晶振動子の製造工程では、表面クラック、機械加工時の研磨摩耗、水晶と電極膜との接合力など、潜在的な残留応力が現れます。また、材料の熱膨張係数が異なるため、キュアやリフローなどの熱工程後に材料界面で熱応力が発生します。

水晶振動子の製造に使用される材料のもう一つの脆弱性は、シリコン接着剤(シロキサン)であり、熱工程中にSiO2、CO2、H2Oに熱分解します。このガスはAu膜のダングリングボンドと反応し、電極膜の表面に塊を蓄積させ、周波数の低下を引き起こします。

2.2. MEMS共振器

SiTime社のMEMS振動子の発振メカニズムは水晶振動子とは異なり、静電伝導によるものです。
MEMS設計は、シリコンの材料特性を利用し、MEMS構造の形状を利用して共振モードを作り出します。水晶共振器とは対照的に、図4に示すMEMS構造は、ガス放出特性がありません。図5に示す共振器は、長期間の動作下でもクリーンで安定した状態を保つことができます。

図4. MEMSベースの共振器構造

図5. 長期間の動作でもクリーンで安定した状態を保つ
プロセスと材料を使用して製造された
SiTime MEMS共振器の断面図

MEMSレゾネータは、半導体製造に用いられる技術と材料を用いて製造されます。従来の水晶製造とは対照的に、MEMS製造工程には、ダイシングソーやポリッシュのような潜在的な汚染リスクをもたらす可能性のある工程は含まれません。
MEMS構造の発振に関連するすべてのパラメータは、半導体工場で厳密に管理されています。

SiTime社のMEMSの構造は、SiTime独自のEpiSeal®プロセスを用いて製造されています。経年変化が極めて少なく、安定した共振器を形成する鍵となります。
SiTime社のMEMS共振器はシリコン製のため、高温(1000℃以上)下でウェーハスケールのシリコン/ポリシリコン・カプセルにパッケージされ、クリーンな真空環境を作り出します[3]

また、MEMSの温度が室温まで下がると、アニール処理が行われます。内部の残留応力は、結晶格子内を移動する原子によって解放され、MEMS共振器は高い信頼性と安定性を持っています。厳格な半導体プロセス制御、製品構造設計、材料特性により、MEMSによる経年変化の影響は最小限に抑えられています。

対照的に、水晶振動子は従来の低温パッケージング技術(セラミックパッケージやウェハボンディングなど)を使用しており、パッケージ内に揮発性有機物や水分が残留し、周波数経年変化の原因となるマスローディング現象を発生させます。

3. OCXOとSuper-TCXO®の経年変化性能

OCXOは、ネットワーク・インフラや高精度測定機器において、非常に安定したバックアップ周波数源として一般的に使用されています。

ネットワーク・インフラや高精度測定機器などのアプリケーションでは、OCXO(場合によってはTCXO)は、GPSのような高精度の外部ソースが失われた場合においてローカル・バックアップ・クロックとして機能します。

ホールドオーバとは、システムが外部基準信号との接続を一時的に失い、ローカル・ソースに切り替わる場合の動作モードのことです。
ネットワークのホールドオーバ性能は、OCXO/TCXOの経年変化、温度変化、時間偏差の影響を受けます。

例えば、中国の三大キャリアの1つである中国移動通信社や電気通信・技術サービスを世界的に提供しているAT&T社、ヨーロッパおよび北米で移動体通信サービスを運営するT-Mobile社など事業者からの要求によって、ホールドオーバ・モードは数時間から数日間続き、経年変化が支配的な要因となります。

次章では、異なるStratum 3E ローカルクロックの経年変化性能を比較しました。

  • Elite X™ 「SiT5501」Super-TCXO®(SiTime製MEMS温度補償オシレーターで、Stratum 3Eの精度を実現)
  • Emerald™ 「SiT5711」(SiTime製MEMS OCXO)
  • 水晶OCXO の長期経年変化測定データ

3.1. 水晶OCXO、MEMS OCXO、MEMS Super-TCXO®の経年変化性能比較

4Gインフラと比較して、5G機器の動作環境は過酷です。5G技術の発展に伴い、OCXOのアプリケーションは、保護された屋内環境から、広い動作温度範囲を必要とする屋外環境へと移行しています。さらに、5Gのネットワーク高密度化により、タイミング・コンポーネントのサイズが圧迫されています。

SiTime社では、水晶OCXOを従来のDIPタイプと小型化された表面実装タイプに分け、さまざまなアプリケーションにおける特性をより正確に比較しています。

5Gアプリケーションの消費電力は増加しており、動作温度が高くなっています。このため、周囲温度が上昇すると、内部のオーブン温度も上昇する必要があります。

例えば、周囲温度が95℃に上昇した場合、水晶温度曲線に基づいてオーブン温度を105℃以上に設定する必要がありますが、先ほどお伝えしたとおり、動作温度が高いと水晶OCXOのアウトガス現象が加速されて、周波数が最初は低下、その後徐々に上昇します。

図6は、MEMSと水晶の両方について、初日を基準にして30日間経年変化を測定したデータです。(この章では、「SiT5501」 Super-TCXO ® と小型水晶OCXO を比較しています)。

図6. 「SiT5501」 Super-TCXO®(赤)と小型水晶OCXO(青)の長期周波数偏差

水晶OCXOと「SiT5501」は、電源を入れた際、ともに正の経年変化傾向を示していますが、長時間の動作では、水晶OCXOの正の経年変化係数よりも負の係数の方が徐々に大きくなります。最終的な周波数偏差現象は負の傾きを持ち、徐々に傾きの大きさが大きくなります。

逆に、「SiT5501」はすぐに非常に安定した状態になり、30日間の動作でオフセットは20ppb以下となります。

さらに、従来の水晶加工プロセスの制約により、水晶OCXOグループ間の経年変化率のばらつきは「SiT5501」よりも著しく大きく、水晶OCXOデバイス群間の大きな性能差は、潜在的な故障の一因となります。一般的に、経年変化率の仕様は30日間の動作後に定義されます。
本ブログでは、30日目と31日目の測定データを使用して、1日の経年変化率を計算します。

図7に示すように、「SiT5501」 Super-TCXO®は経年変化率と標準偏差の点で小型水晶OCXOを上回っています。

図7. 経年変化率の比較 「SiT5501」 Super-TCXO®(赤)と 小型水晶OCXO(青)

「SiT5501」Super-TCXO®は7.0mm x 5.0mmと薄型で、「SiT5711」OCXOは9.0mm x 7.0mmと従来のDIP型OCXOより60%小型です。
「SiT5711」 OCXOのフットプリントは9.0 mm x 7.0 mmで、従来のDIPタイプのOCXOより60%小さくなっています。
「SiT5711」OCXOは、定常状態において安定した信号源と優れたホールドオーバ特性を提供できます。

図8に示すように、「SiT5711」 OCXOは定常状態において安定した信号源と優れたホールドオーバ特性を提供します。また、「SiT5711」の劣化動作は、高い集中度を持ち、1.5 μs.において4時間のホールドオーバを実現します。

「SiT5711」 OCXOは、DU、スモールセル、エッジサーバなど、より精密なアプリケーションに適しています。

図8. 「SiT5711」 OCXO の経年変化とホールドオーバ性能

3.2. SiTime MEMS発振器の実際の経年変化 ローデータと予測結果の比較

図9では、長期のエージングに焦点を当て、「SiT5501」 Super-TCXO®をエージングの実験対象として使用して、経年変化プロセスをあわせ、発生傾向を予測し、周波数出力を予測結果と比較しています。

7日間の測定データをエージング予測モデルにインポートし、30日間の結果を予測し、30日間のローデータと比較します。その結果、測定データ(黄色の実線)は予測データ(緑色の点線)と一致し、R2(決定係数)は99以上でした。

次に、このモデルを使って1年間の経年変化現象を予測しました。その結果、図9に示すように60ppb/年以下となりました。

図9. 「SiT5501」 Super-TCXO®のエージング性能と予測結果

5Gインフラの拡大に伴い、ローカルクロックへの要求はますます厳しくなっており、過酷な環境条件に耐える高精度クロックが求められます。

MEMSタイミング製品は長時間安定した信号を提供し、図10に示すように極めて高い周囲温度でも優れた性能を維持することが重要です。

図10. 動作周囲温度が高い場合におけるMEMS Super-TCXO®(左)とOCXO(右)のエージング性能

4. 今後の課題

将来の5Gネットワークの発展に伴い、SyncE機能(ITU-T G.8273.4)のサポートなしには、高精度のタイミング同期とホールドオーバの要件がより難しくなっています。

SiTime社の製品は優れたエージング性能を持ち、同時に大量生産ができるように開発されています。
補償方法は、前章で説明した予測モデルに基づいて、短いトレーニング期間を経て、良好なエージング特性を持つ製品を生成します。

今回は、24時間連続運転後、10時間のトレーニング期間(青色)を設けました。エージング勾配は、トレーニング期間中の線形カーブフィットで計算されます(黒の実線)。

図11の茶色の点線に示すように、エージング勾配をキャンセルするために補償曲線が定義されています。

図11. 経年変化を補正したトレーニングと予測

次に、エージング補正アルゴリズムを使用した製品と使用しない製品のホールドオーバ特性を比較していきます。

時間誤差±1.5μsで6時間のホールドオーバを目標としました。4つのDUTについて、100回のホールドオーバ試験を等間隔に100点ずつ実施しましたが、エージング補正なしでは、52%しか仕様を満たすことができませんでした。エージング補正を行うと、この数値は92%に増加します。

SiTime社のエージング補償アルゴリズムにより、図12にグラフで示すように、ホールドオーバの特性を40%改善することに成功しました。

図12. エージング補正前後の総時間誤差ヒストグラム

5. おわりに

OCXOの周波数エージングの特性は、時間の経過とともに、避けられない不可逆的なプロセスです。本ブログでは、エージング理論から始まり、MEMSと水晶OCXOのエージング性能について紹介しました。

次に、実際のエージングデータの比較に移り、予測モデルを通して、長期的なエージング性能とフィッティング結果の精度について議論し、最後にエージング特性を改善するためのエージング補正アルゴリズムについて提案しました。

エージング補正の成功は、正確な予測モデルと安定した周波数出力にあります。
MEMS共振器のエージングカーブの変動は非常に小さく、水晶振動子とは異なり、SiTime社のMEMS振動子には、時間誤差の増加につながる異常なドリフトやジャンピングポイントがありません。
このMEMS共振器の特性により、カーブフィッティングの複雑さが軽減され、過補償誤差が最小限に抑えられます。さらに、MEMSベースのOCXOを使用することで、ホールドオーバの時間を長くすることができます。

最後までご覧いただきありがとうございました。

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6. 参考文献

[1]
MIL-0-55310
[2]
“Quartz Crystal Resonators and Oscillators for Frequency Control and Timing Applications – A Tutorial” Rev. 8.5.1.2, by John R. Vig, July 2001, AD-M001251.
[3]
AN2001 SiTime MEMS First™ and EpiSeal® Process

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