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FPGAコンピューティング プラットフォーム「M-KUBOS」のハードウェア構成:モジュラーデザインとMPSoC

FPGAコンピューティング プラットフォーム「M-KUBOS」のハードウェア構成:モジュラーデザインとMPSoC

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前回は「5G時代に注目されるエッジコンピューティング」というテーマで、5Gに必要とされるエッジコンピューティングについてお伝えしました。

その中で、エッジコンピューティングMEC(Multi-Access Edge Computing)に当社の開発したFPGAコンピューティングプラットフォーム「M-KUBOS」が適しているというお話をしました。

その一つの理由が、マルチFPGAシステムFlow-in-Cloud (FiC)として、M-KUBOSを使用することができることです。(マルチFPGAシステムFiCについては、「安価でスケーラブルな性能を実現するマルチFPGAシステム」をご覧ください。)

これは、ミドルクラスのFPGAを使用しながらも、コストパフォーマンスに優れた低コストかつ高性能なシステムを構築できることを意味します。
これにより、エッジコンピューティングにおいて、5Gの特徴のひとつ「超低遅延」を実現するために必要となる高速データ処理が可能となります。

今回は、この「M-KUBOS」の能力について、ハードウェア構成から迫っていきたいと思います。

モジュラーデザインの必要性

日本企業が、これまで行ってきたハードウェア・ソフトウェアの新規開発は、昨今の顧客ニーズの多様化や商品寿命の短命化、そして開発費用の上昇により、大変難しい状況におかれています。収益を継続的に維持・成長させるには、常に一歩進んだ新商品を開発し、市場に展開することがますます重要になるでしょう。

そこで自動車産業や半導体産業など開発費用が膨大で、開発期間も長いとされている産業で今世紀に入って特に注目されているのが「モジュラーデザイン」です。

モジュラーデザインとは、このように製品を設計する前に限られた製造設備で造られる互換性が高いモジュール部品群を設計しておき、新モデルはモジュール部品群から顧客要求に合う部品を選択する方法のことです。

従来の設計
図1 従来の設計

モジュラーデザイン
図2 モジュラーデザイン

モジュラーデザインで製品を設計すれば、単純な部品共通化ではなく、互換性の高い、少量の部品数で魅力的な製品を作ることができます。

また、部品の共通化は部品レベルでの大量生産と、また多様な顧客ニーズに合わしたカスタマイズを同時に実現することができるのです。

これは “マスカスタマイゼーション”と呼がれており、自動車産業や半導体産業など開発費用が膨大で開発期間も長いとされる産業において「原価は安く、売上は多く」という理想形を実現する要になっています。

今回販売を開始したM-KUBOSには、「モジュラーデザイン」のエッセンスがつぎ込まれています。

M-KUBOSの基本仕様

まず、M-KUBOSのハードウェア仕様を以下に記載します。

アイテム 特徴
MPSoC Device Zynq® UltraScale+™ MPSoC XCZU19EG
PS/PL DRAM PS部:DDR4 SDRAM components, 4 GB (512 Mb 16-bits x 4)
PL部:DDR4 SDRAM SODIMM, 4 GB (512 Mb 64-bits)
Micro SD card / QSPI flash memory FSBLやOSイメージを格納
汎用コネクタ DisplayPort1.2, 10/100/1000Mbps Ethernet, SATA, USB3.0, USB UART, CAN2.0
拡張コネクタ FMC, FireFly™, Pmod
Power supply DC 10.5V~13.5V, 12V 1.5A~3.5A typical,Depends on logic implementation
Backup Battery LR44 or SR44, 1.5V 2μA typical
Board 244 x 244 mm, microATX form factor Panasonic FR-4, 16 layers, 2.0mm thickness

次に、ハードウェア構成における特徴的な点をお伝えします。

ザイリンクス社Zynq® UltraScale+™ MPSoC最大のXCZU19EGを搭載

ザイリンクス社が提供しているプロセッサのソフトウェア プログラマビリティと、FPGA のハードウェア プログラマビリティを兼ね備えたSoC ポートフォリオは既にさまざまな機器に採用されています。

Zynq® UltraScale+ MPSoC デバイスは、さまざまなシステムアーキテクチャに対応することができ、CPUがメモリ管理する「ユニファイドメモリ構造」やハードウェアが任意にアクセス可能な「メモリセントリック構造」、そしてその両方をミックスした構造も可能です。

今回ご紹介する「M-KUBOS」では、最新のZynq® UltraScale+ MPSoC 最大のロジック容量の「XCZU19EG」を搭載しています。

FPGAが登場し、組込機器に活用されはじめた頃から、いわゆる「マイコン」と「FPGA」はセットでシステムに組み込まれてきました。

FPGAも進化すれば、マイコンもさまざまな進化の道をたどりました。

その進化のひとつが「モジュラー設計思想」だと考えられます。FPGAでは「ハードコアIPとソフトIP」であり、マイコンではArm ®が提唱した「AMBAバス」です。

ザイリンクス社のZynq® UltraScale+ MPSoCはこれらが融合し「AMBAバス仕様のハードコアIPとソフトIP」資産を有しており、これらを最大限生かす開発が機器開発成功のために必須となっています。

図3 ザイリンクス社Zynq® UltraScale+™ MPSoC最大のXCZU19EG

Samtec®社FireFly™コネクタでボード(モジュラー間)を超高速に結合

GTH、GTYはすべてSamtec®社FireFly™コネクタに接続されています。

GTHはFPGA間接続やさまざまな映像系規格に、GTYはさまざまな光モジュールを採用した規格に対応します。

FireFly™コネクタに統一されることにより、従来の規格はもちろん、これから登場するであろう新規格にも容易に対応できます。

お客様固有のインターフェースをつなげることにより、新製品を次々に生み出すことが可能になります。

PALTEKやさまざまなサードパーティから、12G-SDI、DisplayPortなどのインターフェースカードがすでに発売・開発されています。

写真1 PALTEK12G-SDI TX Borad とベクトロジーDisplayPort1.4 Board

映像規格の伝送を想定したGTH Fireflyコネクタには、「細線同軸」を利用して接続しますが、この青くて平らなケーブルが「FireFlyケーブル」です。このケーブルは秀逸で、30cm程度であれば28Gbps通信が劣化することなく接続可能になります。また10Gbps通信であれば、2mのケーブルで安定動作する実績もあります。

そして「FireFlyケーブル」には光ケーブル版も存在し、GTYとの組合せで25Gbpsまで対応が可能です。 小型ながらFireflyコネクタ 1つで100GbE相当の能力を持っています。

M-KUBOSはさまざまな機器開発で培った高速シリアル基板設計のノウハウが余すところなく注ぎ込まれています。

写真2 M-KUBOSと12G-SDI基板の接続

PS-DDR4とPL-DDR4

PS部の動作に欠かせないDDR4メモリは4GByte実装されています。

一般的に流通しているZynq® UltraScale+ MPSoC基板はSODIMMで増設するか、おおよそ2GByteとなっています。

LinuxなどのOSや、Linux管理下のメモリとPL側との共有メモリ(ユニファイド・メモリ・アーキテクチャなどとも呼ばれます)として使うためには、少々容量がたりません。

M-KUBOSはコストとのバランスもありますが、4GByteを標準で実装していますので、大抵のアプリケーションでは容量不足になりません。

PL-DDR4はSODIMMを採用しており、不要の場合は未実装にすることも可能です。
必要とあれば、お好きな容量、その時の市場コストを鑑みて、SODIMMを選定することが可能です。

システム設計をする場合に、Linux管理外のメモリも必要になる場合があります。

一般流通している基板では、搭載されていないか、小容量となっており、使い物にならないケースがほとんどです。

OS管理外のメモリはハードウェア中心のメモリ共有する構造を構築でき、メモリセントリック・アーキテクチャなどとも呼ばれます。

メモリセントリック・アーキテクチャは次世代のIT機器が目指す方向と言われており、大容量かつ、広帯域なアクセスバンド幅が要求されています。

M-KUBOS単体で見るならば、DDR4-2133がOSなどに邪魔されず、その帯域や容量が使える構造です。さらに付け加えるならば、Zynq® UltraScale+ MPSoCはPL-DDR4のメモリ空間をOSが参照することも可能です。

図4 PS-DDR4とPL-DDR4

セルフシャットダウン機能

M-KUBOSの特長の一つにセルフシャットダウン機能があります。

機器にFPGA基板を搭載するときに、大きな大容量スイッチを筐体の前後に取り付け、「一斉に電源を落とす」という構造が一般的です。

しかし、M-KUBOSには、12V電源を管理する構造になっており、低価格で高信頼型のスイッチが採用でき、一般的なPCの用に、「長押しで電源断」や「OSのシャットダウンコマンドで電源断」が可能です。
産業PCの置き換えなどへの対応も可能です。

昨今の状況からテレワークをしていても、外部からリモートデバッグ時に電源をコントロールすることも可能です。

電源とヒートシンク

このMPSoCシリーズはデバイス自体がもともと低消費電力ですが、M-KUBOSの電源容量は抜かりなく設計されています。

一般的なZynq® UltraScale+ MPSoC基板は50%運転程度を見越して設計されていますが、GTHとGTYをフルパワーで使用しても余裕の電源容量で安定動作を保証します。

ヒートシンクもM-KUBOS用に新規に開発しました。
特に注目して頂きたいのはこの中村製作所製の超薄型フィンです。これにオプションの静音ファンを取付ければ、デスクサイドに配置してもファンの回転音が気になりません。

写真3 新開発のM-KUBOS専用のヒートシンクとファン

写真4 中村製作所製の超薄型フィン:フィンの薄さにご注目ください。

中村製作所:https://www.nakamuramfg.co.jp/introduce/index_A.html

クロック

さまざまな機器設計の検討段階で慎重に検討する必要があるのがクロックです。

制作する機器の各種映像・通信規格によりさまざまリファレンスクロックが必要になります。

M-KUBOSでは、基板上にさまざまなフラクショナルN型の超低ジッタPLLを搭載し、FPGAからのループバックや外部からのリファレンスクロック入力ができるように設計されています。

基本セットで早期開発を

Zynq® UltraScale+ MPSoCは高性能CPUとFPGAを一体化したものであり、従来のFPGAユーザーにとっては一見、ハードルが高いように見えます。

例えば、PS部(ARM)の起動方法や、FSBL(ファースト・ステージ・ブート・ローダー)のお作法など、OSを立ち上げるためには、FSBLの後にU-Bootなどもキックする必要があります。また、GTHやGTY等を何もない状態から立ち上げるのは、困難が伴います。

そのような状況を打開すべく、M-KUBOSには株式会社ベクトロジーが開発した「基本セット」をオプションでご用意しています。

分かりきっている起動手順やリファレンス・デザインが添付されており、FPGAでの開発経験をお持ちのお客様であれば、開発スタートを大幅に短縮ができます。 

より詳しくは、この株式会社ベクトロジーのHPをご覧ください。

まとめ

今回はM-KUBOSのハードウェア構成についてお伝えしました。
ご覧いただいたように、M-KUBOSはMPSoCの全能力を引き出すためのハードウェア構成となっています。

次回は、M-KUBOSの基本セットとPYNQについてお伝えします。

M-KUBOSについて、ご興味のある方はぜひともお問い合わせください。

 

また、今回の記事に関する説明動画をご用意していますので、ぜひともご覧ください。