リチウムイオンバッテリモデルをSimulink®で作ってみた【第2回】SOC、Tに依存するモデル編
このTECHブログでは、自動車業界で普及してきているモデルベース開発を活用し、リチウムイオンバッテリの評価を効率的に行うことができるモデルを作成します。
このモデル作成には、MathWorks社のSimulink®を使用して作成します。
複数回にわたり、モデルを段階的に詳細化していき、最終的にはHDL Coderを使用したHDL化まで行うことを予定しています。
今回は第2回目でOCV電圧、R、CがSOC(充電率)、T(セル温度)に依存するモデルを作成します。
前回の第1回で作成した、OCV電圧、R、Cのパラメータのすべてを定数とする、最も簡易的なモデルから、詳細度を少し上げたモデルです。OCV電圧、R、C とSOC, Tの相関はLookup Tableを使用して算出します。モデルを作成し、シミュレーションによる評価まで行います。
なお、実行した環境は以下の通りです。
OS | Microsoft Windows 10 Pro |
---|---|
MathWorks社製 | MATLAB® バージョン 9.8 (R2020a) |
Simulink® バージョン 10.1 (R2020a) |
目次
リチウムイオンバッテリの等価回路モデル
今回使用する等価回路モデルは第1回目で使用したものと同じものです。
ただ今回は図1のようにOCV電圧、R、CがSOC、Tに依存することを考慮したため、Simulink®モデル作成時に差異がでてきます。
第1回目のモデルでは可能な限り簡易化するために、本来はSOCやTに依存する、OCV電圧、R、Cのパラメータのすべてを定数として取り扱っていました。
図1 リチウムイオンバッテリ等価回路モデル
各部の対応は以下の通りです。
Eocv | 開回路電圧[V] |
---|---|
ibat | 端子電流[A] |
R0 | 電気化学反応の速い反応を模擬した合成抵抗[Ω] |
R1 | 電気化学反応の遅い反応を模擬した抵抗成分[Ω] |
C1 | 電気化学反応の遅い反応を模擬した電気容量成分[F] |
ic | C1 の電流成分[A] |
iR | R1 の電流成分[A] |
V0 | R0での電圧降下[V] |
V1 | R1,C1での電圧降下[V] |
Vbat | 端子電圧[V] |
SOC | 充電率 |
T | セル温度[K] |
等価回路モデルを回路方程式へ
等価回路モデルを回路方程式にしたものも第1回目と同じで以下になります。
回路方程式をSimulink®モデルへ(Eocv, R, CはLookup Tableでモデリング)
図2のようにSOC, T, ibatを入力、Vbatを出力とし、回路方程式①,⑤,⑦からSimulink®モデルを作成しました。
前回とは異なり、Eocv, R0,R1,C1がSOC, Tに依存することを考慮にいれ、その相関は2D-Lookup Tableを使用して算出するようにしています。図2の緑枠が該当する部分です。
※画像クリックで拡大画像が表示されます。
図2 Lookup Tableを使用したリチウムイオンバッテリのSimulink®モデル
図3 Lookup Tableの値
設定したLookup Tableの値は図3の通りです。ブレークポイントについては、SOCは0から1まで0.1間隔で、Tは293.15[K](=20℃)、313.15[K](=40℃)に設定しました。
いずれも、参考文献[1],[2]を参考にしました。
シミュレーションによる評価
上記で作成した、Lookup Tableを使用したリチウムイオンバッテリのSimulink®モデルで、図4のようにSOCが1の状態からibat =5[A]で240[s]間放電した場合のVbatの変化をシミュレーションにより評価しました。
セル温度Tは20℃(Temp20=293.15[K])、ibatを0[A]から5[A]に変化するタイミングでSOCを1から0.9に変化させています。
図4 評価条件(ibat,SOC)
バッテリの端子電圧Vbatのシミュレーション結果は図5の通りです。5[A]の放電電流ibatが流れ始める240[s]で変化が現れ、SOCの1→0.9の変化によるEocvの低下とV0(= R0 ibat:回路方程式①)による電圧降下、V1(=(1/C1)∫ (ibat – V1/ R1)dτ:回路方程式⑦)による電圧降下でVbatが変化します。V1の電圧降下の特性はR1とC1のカップリングで決まります。放電電流がきれる480[s]でV0成分の電圧降下がなくなり、その後ゆるやかにV1成分の電圧降下分がなくなり、SOCが0.9の時のEocvに収束していきます。
図5 Vbatのシミュレーション結果
終わりに
今回はOCV電圧、R、CがSOC(充電率)、T(セル温度)に依存するリチウムイオンバッテリのSimulink®モデルをLookup Table を用いて作成しました。SOCが1の状態からibat =5[A]で240[s]間放電し、SOCが0.9となる場合のVbatの変化をシミュレーションにより確認しました。
もしお手元にあるSimulink®モデルのHDL化やモデルベースデザイン設計を委託したいというご要望がございましたら、以下よりお気軽にお問い合わせください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。