メモリ基本講座「DRAMとは何ぞや」
TECHブログ「半導体メモリとは何ぞや」で解説しましたが、電源を切ると記録が消えてしまうメモリを 揮発性メモリ、RAM (Random Access Memory) と言います。
今回はその「RAM」の中の「DRAM」について解説します。
RAMって何?
電源を切ると記録が消えてしまう揮発性メモリ、RAM (Random Access Memory)。語義的には "揮発" の意味はぜんぜんないので注意です。
RAM には、DRAM と SRAM の2種類があります。
揮発性メモリ ~DRAMとSRAMの違い~
DRAM ( Dynamic RAM )
▶ 大容量(~16Gb)
▶ ビット単価が安い
▶ アクセスが手間
・コマンド制御
・リフレッシュ必要
▶ 消費電力小
DRAMのセル構造の画像(単純)
DRAMの”リフレッシュ”とは?
DRAMは、コンデンサに電荷を蓄えることで情報を保持するが、この電荷は時間とともに減少し、 放置しておくと放電しきって情報を失ってしまう。
これを防ぐため、一定時間ごとに再び電荷を注入する動作が必要。これを「リフレッシュ」という。
「リフレッシュコマンド」をホストから7.8us毎に1回実行する、などの処理が必須。リフレッシュの間はリード、ライトが出来ないので、その分パフォーマンスが落ちる。
SRAM ( Static RAM )
▶ 小容量(~288Mb)
▶ ビット単価が高い
▶ アクセスが単純
▶ 消費電力高
SRAMのセル構造(複雑)
今回は、DRAM に関して解説していきます。
DRAMの種類
DRAM は、大きく分けると Standard の SDRAM と、Low Power の SDRAM の2種類があります。
SDRAM の S は Synchronous の S。クロックに同期してデータが入出力されることを意味します。
DRAM の種類
SDRAM ( Synchronous DRAM )
▶ SDR, DDR, DDR2, DDR3, DDR4, DDR5
遅い←
→速い
▶ JEDEC ( Joint Electron Device Engineering Council ) で仕様が規格化
LPDRAM ( Low Power DRAM )
▶ SDR, DDR, DDR2, DDR3, DDR4, DDR5
▶ Standard の SDRAM に比べて動作時/待機時共に 半分以下の消費電力
・電源電圧がそもそも1.2Vなど低い
・低消費電力向けの特別な機能を持つ
図1 DRAMの種類
図1のとおり、クロックの立ち上がり、立ち下がりのタイミングでデータのやり取りが行われます。
SDR (Single Data Rate) は、クロックの立ち上がりだけでデータが変化します。
DDR (Dual Data Rate) は、クロックの立ち上がり、立ち下がりの両方でデータが変化します。
よって、クロックが同じであれば、DDR のほうが2倍のデータをやり取りできる、ということになります。
DDR, DDR2, DDR3, DDR4, DDR5 の主な違いは、そのクロックの速さです。
クロックが速い、というのは、図1の DDR 波形の Clock のところに、青い矢印が引かれていますが、この幅(時間)が狭くなることを意味します。
よって、クロックが速くなれば、同じ時間でやり取りできるデータ量が増える、ということになります。
クロックの高速化はどんどん進んでおり、2005年には DDR2 で 533Mbps(266MHz) であったものが、2016年には DDR4 で 2666Mbps(1333MHz) 、2020年にはDDR5で4800Mbps (2400MHz)、5200MHz (2500MHz)、6400Mbps (3200MHz) と進化し、10倍以上のスピード差になります。
1333MHz というのは、図1の DDR 波形の青い矢印の幅が、わずか 375ps (0.000000000375秒)しかありません。
どれだけ設計が困難か、ご想像いただけるかと思います。DDR5の設計は神業の領域になりますね。
LPDRAM (Low Power DRAM) は、Mobile DRAM という言い方もあります。同じものです。
図1に記載のとおり、低消費電力に特化した SDRAM で、当初はモバイル製品搭載に特化したDRAMでしたが、現在は様々な組み込みアプリケーションでも採用されています。
DRAMのトレンド
市場によって違いはありますが、簡単に 産業用途の市場でのトレンドを書きます。
Standard の DRAM は DDR3とDDR4 が主流ですが、DDR4のシェアが更に増えていきます。
DDR3 は 4Gb 品、DDR4 は 8Gb 品がメインストリームです。
今後はDDR5への移行も増えていくかと思いきや、組み込み市場ではDDR5ではなくLPDDRへ移行していきます。
なぜならば、組み込みのアプリケーションでは、DDR5のスピードも必要ないため、Low Powerの方に重点が置かれていくからです。
Low Power の DRAM も、LPDDR4 の採用が増えてきています。
LPDDR2 は量産中の案件が多い(特にPOP)ため、LPDDR3 より長く供給が続く可能性が高いと言われています。
LPDDR3 をとばして、LPDDR2 → LPDDR4 へ移行する顧客が多いと推測されています。
メインストリームのDRAMは価格メリットが出ます。供給も安定しています。
そうでないものは当然価格も上がります。単純に容量が倍だから価格も倍、ではありません。
PC 向けの DDR4 ではすでにビットクロスが発生しており、同じ容量の DDR4 DIMM でも、4Gb 品ではなく、8Gb 品を搭載したものの方が安くなっています。
DRAM使用時のキーワード
「JEDEC 準拠」 ってどういうこと?
各メーカーの DRAM は 「JEDEC 準拠」 をうたっています。
皆様も、JEDEC(じぇでっく) という言葉は聞いたことがあると思います。
JEDEC とは、半導体部品の分野で規格の標準化を行っている業界団体のことです。
電子部品の命名規則、信頼性試験の方法、部品パッケージの図面等々、半導体に関することをいろいろ規格化しています。
中でも一番有名なのが、DRAM に関する規格を策定したことです。
各メーカーは、JEDEC が策定した仕様に基づいて DRAM を開発します。
よって出来上がった DRAM は、例えば同じ容量の同じバス幅の DDR3 であれば、メーカーが異なっても(基本的には)互換性があります。
DRAMのデータシートは、メーカーによって数ページで、「詳細は JEDEC RevXXX を参照」 と書いてあるのもあります。
NOR や NAND は、細かく仕様を決めないと部品選定ができませんが、DRAM はその種類と、容量と、バス幅が決まれば部品選定が可能です!
プロセスシュリンク について
DRAM はプロセスシュリンクが頻繁に実施されるデバイスでもあります。
それは上記のとおり、JEDEC 準拠なのでシュリンクしても(基本的には)置き換え可能である、という前提があるため、各社可能な限りシュリンクして、製造コストを下げようとします。
よって、メインストリームのデバイス(DDR3 なら 4Gb, DDR4 なら 8Gb)は、特にシュリンクが多くなる傾向があります。
先ほどから互換性について、「基本的には」 と付けていますが、シュリンクして、まったく同じデータシートスペックのものが出来上がるわけではありません。
JEDEC で規定されていない、消費電流、熱抵抗値等は、シュリンクの前後で変わってしまいます。
ごくまれにですが、これらが要因となって、シュリンク後のデバイスに変えたら動かなくなってしまった、という場合があります。
それを避けるためにも、
★ 量産時期とメモリメーカーのロードマップを照らし合わせて、なるべくシュリンクの回数が少なくなるように製品を選定する
★ シュリンクのスケジュール情報は早いうちに把握しておく
★ シュリンク後のデバイスでサンプル評価を早めに行う
といった配慮が必要です。
おまけ
DDR4の最新プロセスは図2に示す通り、1α品になります。今後は1β、1γ (and more?) まで進むと言われています。DDR5は1Z品で最初の製品リリースが予定されています。これはDDR4で多くの実績があるプロセスを採用することで、製品の安定性を図る目的があります。
プロセスシュリンクは各社しのぎを削り、最新のテクノロジーを採用し続けています。
図2 DRAM Product Roadmap
引用元:Tech Insights 「DRAM Product Roadmap Update」
PALTEKでは、DRAM、NOR Flash、NAND Flashについては Micron の取り扱いがあります。
SRAMについては GSIテクノロジー の取り扱いがあります。