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【アナログ回路豆知識】一般的な降圧型DC/DCの電源ICを用いたマイナス電源回路の作り方(実践的な回路例)

【アナログ回路豆知識】一般的な降圧型DC/DCの電源ICを用いたマイナス電源回路の作り方(実践的な回路例)

アナログ系半導体を使った具体的な回路例をお伝えする「アナログ回路豆知識」。
今回は、「マイナス電源回路」の作り方と題してお送りします。
専用の設計部品を使用するのではなく、一般的な降圧型DC/DCの電源ICを用いてマイナス電源回路を構築します。

では、まいりましょう。

目次

マイナス電源回路の必要性

+12V, +5V, +3.3Vなどといったプラスの電源電圧は世の中で幅広く使用されていますが、必ずしもこれらの電圧ばかりではありません。
最新の液晶ディスプレイやイメージカメラ、あるいはオーディオのアンプなどのシステムにおいては複数の電源電圧を備えることがあり、マイナス電源がおおむねのケースで使用され、必要不可欠な電源系統の1つとなっています。
マイナス電源は直流の電源において、プラス側(出力)を接地することで発生するものです。 マイナス電源回路は、下記のアプリケーションで使用されており、これらを動作させるために必要となります。
たとえば、

  • CCDイメージセンサのバイアス電源として
  • TFT-LCDのバイアス電源として
  • OPアンプ回路の電源(ダイナミックレンジの拡大)として
  • 特定センサなどの供給用として
  • 電話交換機などの主電源として

マイナス電源回路を作る上でのよくある問題点

では、具体的にマイナス電源回路を作る上で、どのようなことが問題になるのでしょうか?
以下にその問題点を示します。

1. 専用設計部品を調達することによるコスト高

通常の回路に比べコストがかかるという点です。マイナス電源を作るためのトランスを手軽に設計するには、専用の設計部品を使用することとなり、工数とコストがかかります。

2. トランスなどの大型部品を用いることによる基板面積の増大

外付けMOSFETやトランスの大型部品を用いることにより、基板面積が大きくなります。開発される製品にもよりますが、基板面積を小さくしたいという場合には問題となります。

3. 回路の複雑化による検証コストの増加

外付けMOSFETを使うため設計回路が複雑化し、設計検証に時間を要してしまいます。

4. 隠れた見落としがちな注意事項

最後に、見落としがちな点としては、正電源環境(マイコンなど)からマイナス電源環境への接続方法です。マイナス電源回路への接続する際にはデバイスが持つ絶対最大定格の問題や異なる電圧レベルでの問題があります。

マイナス電源回路の作り方

上記のような問題の解決策として提案させていただきたいのが、一般的に使用される降圧型DC/DCの電源ICを用いたマイナス電源回路の設計です。

降圧型DC/DCの電源ICを使用することで、回路設計が容易、基板の小型化、コスト削減などのメリットを享受することができます。

では具体的に、マイナス電源回路の設計を行っていきます。

設計仕様

はじめに、設計仕様を確定させなければなりません。
設計仕様を決める際には、電源に割り当てることができる周辺部品含めた基板サイズや、量産を想定したコスト面などついてもその他制約事項として検討します。 今回の設計仕様は下記表1.設計仕様のように定めました。

表1.設計仕様

設計仕様
入力電圧範囲 入力電圧 出力電圧 出力電流 出力リップル
7V ~ 26V +12V - 5V 500mA 50mV pk-pk
その他制約事項  
基板サイズ コスト ノイズ制約
なるべく小型 安価 低EMI

使用する電源IC

今回の部品選定している電源ICは、モジュール(FET+インダクタ内蔵)タイプの MPM3510Aです。この電源ICを使用して説明します。

部品選定
ベンダ 製品名 種別 トータル
面積サイズ
コスト
MPS MPM3510A 降圧型DC/DC
モジュール
6.7mm x 6.3mm
(周辺部品含む)
3$以下

下図は製品データシートの概要となります。今回の設計仕様を満たしていることを確認します。


図1.MPM3510Aの製品データシートPage1(概要)

製品データシート記載の定格値や電気的特性表の値などより設計仕様を満たしていることを確認しますが、細部までの確認はこの段階ではまだ必要ありません。

マイナス電源回路の作成イメージ

一般的な降圧型(図2a降圧型DC/DCの原型)の説明についてはここでは省略します。 マイナス電源回路として応用するためには、この原型をベースとしてICのVOUTがGNDに接続してICのGNDを-5V出力として構成させます。また入力コンデンサ/出力コンデンサも-5Vに接続されます。

その応用の結果としてできるのが、下図参照(図2bマイナス電源回路)のようになります。

より具体的な回路例

より具体的にイメージした回路例が、図2c.マイナス電源回路の動作イメージとなります。


図2c.マイナス電源回路の動作イメージ


下図はENピン(実効制御ピン)回路を含めたイメージとなります。


図2d.マイナス電源回路のEN回路含めたイメージ

確認項目及び設計方法

ICのVINピンの耐圧確認


ICのVINの耐圧を確認します。
VINピンの絶対最大定格は40Vmaxです。この値を一瞬たりとも超えて使用してはいけません。耐圧マージンを十分確保してご使用ください。

推奨動作範囲内についても確認し、この範囲内で使用するようにしてください。
ICに印可される電圧はVIN+VOUTの和となります。
入力電圧の許容範囲は下記の計算式と要求仕様より7V~31Vmaxとなります。

以下の式を満たしていることを確認してください。

Vin + l -Vout l < 36V

図3a絶対最大定格と推奨動作範囲について参照。(MPM3510Aの製品データシートより抜粋)


図3a.絶対最大定格と推奨動作範囲について

ここでは5Vのマージンを確保して、実際の設計仕様の上限は26Vとしました。


ICのENピンの耐圧確認


ICのENピン(実効制御ピン)の耐圧を確認します。
ENピンの絶対最大定格は6Vmaxです。Vinの定格値と比較して低い耐圧のケースが多いです。

マイコンなどのロジックレベルは通常、正電圧動作となっていますので、MPM3510AのENピンに直接入力することはできません。
ENピンに直接入力すると耐圧不足となり、デバイスの劣化や破損に至る可能性があるためです。
そのためディスクリート部品を用いたレベル変換回路が必要になります。


ICのENピンのスレッショルドレベル確認


ICのENピンのスレッショルドレベルを確認します。
ENスレッショルドレベルの規定typ:1.45V, min :1.1V ,max:1.8Vです。
typ:1.45Vの値を使用した場合、固有バラツキによっては電源オンとならない可能性もあるため、固有のバラツキを考慮して1.8Vを使って計算します。
図3b ENピンのスレッショルドついて参照。

図3b. ENピンのスレッショルドついて

VOUTの設定抵抗値の確認


VOUTの設定抵抗値は下記の計算式を使用します。
基本、降圧型の計算式と同じです。

Vout = ( Vref / R2) x R1 + Vref , Vref =810mV
抵抗のE24系列より5V出力となる値を選択します。
Vout = 0.81V/ 9.1k x 47k +0.81V =4.994V ≈5.0V

実際の回路例

ICのENピンの駆動回路方法についてはVINと連動(同時)させる構成とするのか、マイコンなどの外部制御によりオン/オフを行う構成とするのかで2つに大別できます。 ここではこの2つの構成例を作ってみたいと思います。

VINとENピンを連動させる駆動回路例


1つ目のVINとENピンを連動させる駆動回路例は、図4a. ENピンを駆動する回路例① なります。


図4a. ENピンを駆動する回路例①

ICのENの絶対最大定格6V超えないようにVENの抵抗分圧R1,R2を設定します。
計算例:Vin=12V, Vout=-5V, R1=56k, R2=10k

12V入力

VEN= (12V+l-5Vl) x 10k/(56k+10k) =2.576V < abso=6V
2.576V この値はICのGNDピン(-5V)基準としてみたレベル差であり、絶対値としてのレベルではないことに注意してください。
オンの閾値:Enable_th =1.8V(max) < 2.786V

7V入力

VEN= (7V+l-5Vl) x 10k/(56k+10k) =1.818V < abso=6V
Enable_th =1.8V(max) < 1.818V

26V入力

VEN= (26V+l-5Vl) x 10k/(56k+10k) =4.697V < abso=6V
Enable_th =1.8V(max) < 4.697V

VINとENピン連動による設計方法は以上となります。


マイコンなどによる外部制御での設計方法


もう1つ目の設計方法となります。
マイコンなどの正電圧環境下(1.8V,3.3V のGPIO)しかない場合で、ENピンを外部制御から行いたい場合の構成は、図4b. ENピンを駆動する回路例②となります。


図4b. ENピンを駆動する回路例②


下記、表2部品表となります。

表2部品表

※ D1、D2、Q1は弊社取扱製品ベンダーでもあるNexperiaより選定しています。

ICのENの最大定格を6V超えないようにVENの抵抗分圧R1,R2を設定します。
計算例: input=0V or 3.3V, Vout=-5V, R1=56k, R2=10k
0V/3.3V入力において、それぞれのENピンの印可電圧は

Input= 0V入力

VEN => 0V です。Q1のPNPトランジスタがオフ。

Input= 3.3V入力

VEN => 3.3V - VF -Vce_sat x ( 10k/(20k+10k) )
VEN => 8V x (( 10k/(20k+10k)) = 2.667V < abso=6V
トランジスタQ1/ R1と5V間の電圧は≒8Vです。(Vce_sat≒0.1V,VF=0.1V)

オンの閾値:Enable th =1.8V(max) < 2.667V

まとめ

いかがでしたでしょうか?
今回のように、MPS DC/DCモジュールを使うことで外付けトランスなどを用いる必要もなく、安価で小型なマイナス電源回路を作ることが可能です。

MPS DC/DCモジュール全ラインナップ資料も下記リンク先をご覧いただくことができますので、併せてご確認いただければと思います。