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【アナログ回路豆知識】DCDCスイッチングノイズ測定~その測定方法はあっていますか~

【アナログ回路豆知識】DCDCスイッチングノイズ測定~その測定方法はあっていますか~

皆さん、こんにちは。

スイッチングノイズが発生した際、皆さんはどのように対応されていますか?
まずスイッチングノイズが正しく測定できているかどうか疑ってみるとよいかもしれません。

以下に心当たりがある方は、ぜひ本ブログを最後までご覧いただければ幸いです。

ケース1:スイッチングノイズの測定方法は正しいですか?
測定結果が想定より大きい、〇〇以下に収まることを想定していたのに…と思ったことはありませんか?そのような場合には測定方法を見直してみることをおすすめします。
デジタル系や低速のアナログなどと同じ環境のまま、プローブのGNDをワイヤーGNDのまま測定する人が多く見受けられます。ワイヤーGNDがアンテナになることが要因で、測定結果が悪化してしまいます。測定ポイントも重要です。
ケース2:数百万円のオシロスコープを帯域と分解能だけで選んでいませんか?
オシロスコープの帯域と分解能は、測定の上では重要です。ただし、帯域と分解能のみをよりどころにすると落とし穴にはまってしまいます。
本体とプローブの関係が合っていないことも要因の一つです。

上記のような要因で、実際の現象と異なる測定結果が表示されることがあります。
本ブログでお伝えするノウハウを活用することで、実際の現象に近い測定結果を表示することが可能となります。それでは始めましょう。

目次

1. スイッチングノイズの発生要因

今回は、測定にフォーカスしているため、スイッチングノイズの発生要素のみ紹介します。

・ICで使用されている素子はPN接合でできています
・FETの等価回路を作成すると、抵抗、コンデンサ、インダクタンスがあります
・抵抗も等価回路を作成すると抵抗の他に容量とインダクタンス成分もあります
・配線についても並行する配線に寄生容量ができます。
・物質なので抵抗値があり、インダクタンスもあります
・ICに限らず、LCR成分が必ずあります
・DCDCの場合、FET、コイル、コンデンサなどの部品の他に、上記のLCR寄生素子が必ずあります

上記のLCR成分によって、DCDCのスイッチング時の電流経路で、スイッチの切り替わり時にリンギングが生じます。これが、スイッチングノイズの発生要因です。

1.1 測定方法

弊社は、Monolithic Power Systems, Inc.社(モノリシック パワーシステムズ、以降MPS社)の正規代理店として製品の提案、設計サポートを行っています。 MPS社
今回スイッチングノイズの測定にはMPS社製:MPM3840を用い、測定結果例を示します。
測定条件
・VIN=5V、VOUT=1.1V、Iout=1A、常温
・測定基板の回路はMPM3840の評価基板を使用

測定デバイスの推奨回路

図1 測定デバイスの推奨回路

測定のポイントはいたってシンプルで、出力コンデンサの両端を測定するのみです。
スプリングGND先端を基板GNDに半田付けして、 GNDループが最小になるようにしてください。

A社製パッシブプローブ B社製パッシブプローブ
図2 A社製パッシブプローブ 図3 B社製パッシブプローブ

プローブの構造にもよりますが、GNDインピーダンスをどれだけ低減できるかがポイントとなります。
今回は、付属のパッシブプローブでどのように測定すればうまくいくかという一例を紹介しています。以降では、本測定方式での違いについてお話します。

1.2 測定器による違い

使用したオシロスコープとパッシブプローブの組み合わせは以下の通りで、A社、B社同一価格帯のオシロスコープを使用しています。

型式 周波数帯域 最高サンプリング速度 レコード長 プローブの
容量負荷
 
・A社製
4000シリーズ 1GHz 5GS/s 20M - 本体
1GHz - - 3.9pF 標準プローブ
・B社製
4000シリーズ 1GHz 2.5GS/s 12.5M - 本体
500MHz - - 10pF 標準プローブ

2. 誤差発生要因

測定器の違いでどのように変化するのか、以下の3パターンで測定の比較を実施しました。

測定① : A社製オシロスコープ+A社製パッシブプローブ
測定② : B社製オシロスコープ+B社製パッシブプローブ
測定③ : A社製オシロスコープ+B社製パッシブプローブ

⇒測定①、③は本体が同じ、プローブが相違
⇒測定②、③はプローブが同じ、本体が相違

2.1 スイッチング端子 Tr 波形

※画像クリックで大きな画像が表示されます。

①A社製オシロ

A社製パッシブプローブ
③A社製オシロ

B社製パッシブプローブ
②B社製オシロ

B社製パッシブプローブ

2.2 出力リップル波形(出力端子 0.15uF 追加)

※画像クリックで大きな画像が表示されます。

①A社製オシロ

A社製パッシブプローブ
③A社製オシロ

B社製パッシブプローブ
②B社製オシロ

B社製パッシブプローブ
19.6mV 29.6mV
プローブ起因での悪化
40.6mV
測定器とプローブで悪化

 

⇒2.1と2.2の測定結果は、①⇒③⇒②の順で悪化していることがわかります

  • ①⇒③:プローブに起因
  • ③⇒②:本体に起因

2.3 オシロスコープ構成

オシロスコープの構成は、A/D変換の速度、分解能が測定精度に大きく影響を及ぼします。
入力AMP以降については、基本的にユーザーが変更できる部分がありません。
入力のプローブで最大電圧など各種特性が異なります。

オシロスコープ構成

図4 オシロスコープ構成

2.4 オシロスコープ入力等価回路

以下にテクトロ製のオシロスコープでの想定等価回路例を示します。(AC入力)
パッシブプローブの入力からAMPの入力までの等価回路例です。
なお、インピーダンスマッチング済みでの想定値です。(公開されていないため、各種入力定数から想定)

テクトロ製 オシロスコープでの想定等価回路例

図5 テクトロ製 オシロスコープでの想定等価回路例

2.5 オシロスコープ校正とは

次に、オシロスコープ校正について述べます。
オシロスコープ校正では、オシロスコープ本体の発振器で波形の校正を行いますが、一体何を行っているのでしょうか。

それは
R1/(R1+R2)=C1/(C1+C2+C3/C4)
となるような調整を行っているのです。

オシロスコープ校正 (図5より抜粋)

図6 オシロスコープ校正 (図5より抜粋)

C2は本体の容量で決まっているので、C1に対してC4の補正量が十分でないと正確な測定はできません。
また、RとCの比率が異なることで減衰比が周波数で変化するため、波形の再現が悪化して見えてきます。

2.6 プローブの入力容量を調整した結果

※画像クリックで大きな画像が表示されます。

①A社製オシロ

A社製パッシブプローブ

③A社製オシロ

B社製パッシブプローブ

(C4は未調整)

③A社製オシロ

B社製パッシブプローブ

(C4を調整)

1GHzまで-20dBなので
10:1の入力が維持できている。
1GHz前で-14dBなので
10:1の入力が維持できていない。
1/10倍の波形を10倍するので実際より大きな結果を表示する。
1GHzまで付近まで-20dBなので、ほぼ10:1の入力が維持できている。
ただ、容量の補正の可否はプローブに依存する。

3. 回路・アートワークの改善

推奨回路は、最低限動作する構成しか記載されていないこともあります。必要に応じてアレンジを行ってください。

モジュール品についても基本は同様です。以下の点にご注意ください。

・コイルの下のパターンは基本抜く(コイルに依存)
⇒磁束の集中が影響を及ぼす
・小型のコンデンサを追加する(VIN、VOUT)
⇒最低1個、できれば2個でスイッチングパス形成
・FBラインはSW端子、コイルから距離をとる
⇒できない場合、内層でシールドする
・コンデンサはICと同一面に実装する
⇒2個実装なら1個は同一面へ(半分はICと同一面)

スイッチングパスなし

図7 スイッチングパスなし


スイッチングパスあり

図8 スイッチングパスあり


フィルターを形成する場合については、以下の点にご注意ください。

・コモンモードフィルター
⇒GNDは必ず分ける、異GNDを重ねない
・T型・π型フィルター
⇒GNDは共通

3.1 入力リップル波形/出力リップル波形

A社製オシロとA社製パッシブプローブを使用した、入出リップル波形/出力リップル波形について説明します。

入力リップル波形
:入力端子への小型パッケージのコンデンサを直近に配置
(小型サイズの小容量の有無での差)
出力端子 0.15uF なし 出力端子 0.15uF あり
  ⇒スイッチングノイズ70mV低減

 

出力リップル波形
:出力端子への小型パッケージのコンデンサを直近に配置
(小型サイズの小容量の有無での差)
出力端子 0.15uF なし 出力端子 0.15uF あり
  ⇒スイッチングノイズ4mV低減

まとめ

スイッチングノイズの計測は、見直しがしやすいことから確認を行う機会が多いと思います。しかし、「高価な測定器を使用しているから大丈夫」、「帯域は十分だ」という理由だけで、検証環境を利用すると、測定結果に見落としが出ることがあるかもしれません。そのような際には、他社のオシロスコープと比較をしてみるのはいかがでしょうか。

また測定に問題がない場合、回路、アートワークの問題が考えられます。
パスコンデンサに十分な容量があるか、フィルターの構成は適切か、GNDのアートワークに問題はないか、など確認をしてみてください。

いかがでしょうか。DCDCの損失やスイッチングノイズの測定器による差異、誤差発生要因やスイッチングノイズ低減についてご理解いただけましたら幸いです。

 

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